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⑩ 転生に憧れた白猫アルは、転生して幸せを手に入れました

「すみません……。相談したいんですが、良いですか?」  澄み切った青空が広がる朝。僕が鼻歌を歌いながら店頭の花々に水をあげていると、後ろから控えめに声をかけられた。振り返ると、そこには不安そうにたたずむ女性の兎獣人が立っていた。 「あ……の、これ、予約の……」 「あ! 予約されていた方ですね。どうぞ、どうぞ。ようこそいらっしゃいました」  女性は、視線をあちこち泳がせながら、不安げに一枚の紙を差し出してきた。そこには今日の日付と時間が記されていた。僕はその出された受付票を確認すると、レオの待つ、奥の人目につかないテーブルへと案内した。  僕は椅子を静かにひき、そこへ座るように促した。着席した女性を確認すると、レオは不安げな女性に向かって「ようこそいらっしゃいました」そう言って優しく微笑んだ。  僕とレオのドタバタ転生劇から、それなりの月日が流れていた。怒涛のように過ぎた日々は、つい昨日のことのように思い出される。  レオの職場だったカフェは、書店部分も合わせて大々的にリフォームをした。街のために、役に立ててほしいと言うのが、ヘレンの遺言だったから。  何に活用しようかと考えた時、この街特有の事情と自分たちの経験から、転生してくる獣人たちの相談窓口になる場所を作ることにした。  以前と相変わらず、この街には獣人の転生者が度々やってくる。他のところより明らかに多いと思う。その原因は、神様であるネムさんが、困っている転生者を放っておけず、自分の街に誘導してしまうからだ。  ネムさんは相変わらず、自分の本来いる場所へは戻らず、この街で過ごしている時間が多い。ただ、僕たちのことがあってからは、ネムさんの代理をたてて転生者の対応をしているらしい。 「レオー。ちょっと飛び入りでお願いした……っと、ごめん。接客中だったね」  まだお店を開けたばかりなので、誰も来ていないと思ったのだろう。普通にバタンとドアを開けて入ってきたのは、この街の神様のネムさんだ。ネムさんは、まだ幼い男の子と手を繋いでいた。男の子も不安げな表情で、ビクビクと周りを見渡している。 「この次の時間は入ってないから、ちょっと待っててもらえるなら大丈夫だよ。アル、なにか飲み物出してあげて」  奥まった席で先程の女性と話をしていたレオは、尋ねてきたネムさんの存在を確認すると、僕に向かって指示をし再び対話に戻った。  僕はレオに言われたように、ネムさんと男の子を別の席に案内する。そして男の子の目線になって「オレンジジュース、好き?」と、なるべく怖がらないように声をかけた。その瞬間、パッと目を輝かせたので、僕はほっと胸をなでおろした。 「オレンジジュースと、クッキーだよ。よかったら食べてね。……これ、僕が作ったんだよ」 「え? お兄ちゃんが?」 「うん、美味しいから食べてみて」 「ありがとう!」  僕は、不安を持ってやってくる人たちが少しでもくつろげるようにと、可愛くデコレーションしたアイシングクッキーを作っている。みんな可愛いと言って喜んでくれるんだ。  こんな感じで、相談窓口は一日途切れることなく人がやってくる。その何割かは、相談ではなく休憩所としてカフェを利用しに来る街の人々だったりする。  けれどその様子を見て、相談に来た転生者はこの街なら大丈夫だと安心し、新しい住人になり街に馴染み、また新しい者を受け入れる。  それがネムさんの求める、「平和な街」の、幸せのカタチであり、願いなんだそう。 「あるー、おなかすいた~~」 「ごはんまだ~~」  今日の最後の来客が終わる頃、お店のドアが勢いよく開くと、二人の獣人の子どもが僕の胸へと飛び込んできた。  僕に似た真っ白な毛並みでレオ譲りのフワフワ長毛の子と、レオそっくりのフワフワ茶トラの子。 「はいはい、もう閉めるからちょっとまっててね」  二人をいっぺんにギューッと抱きしめると、奥から出てきたレオへと渡した。 「ぱぱぁ~~!」 「あそぼ~~」  僕のもとに飛び込んできて、今はレオとじゃれている二人の子は、僕とレオ二人の子だ。    転生してきたばかりの頃僕は『これから起きることは、そういう事もあるんだなと深く考えずにいたほうが、ここではスムーズにいくのだろう』……と、そんなことをぼんやりと思っていた。  これは実は正解で、この世界では、獣人は性別関係なく子を授かることが出来る。転生前の世界では考えられなかったことも、ここでは叶えられる。  大好きな『レオ』と生まれ変わって再会して、ありがとうも大好きも伝えられた。それだけじゃなく、お互いに愛し合いされ、恋人となり、夫夫(ふうふ)となり、こんなに可愛い子どもたちを授かることが出来た。  今でも時々これは夢なんじゃないかと思うことがある。けど、レオと可愛い二人の子どもたちに囲まれていると、本当に僕の家族なんだって実感できる。夢みたいだけど、幸せな現実。  僕は、二人の子を抱きしめているレオに、飛び込んでいった。 「みんな大好き! 僕の大切な家族だよ!」  これからも、沢山の夢が叶えられていくのだろう。  ずっとずっと、未来は明るい──。  転生に憧れた白猫アルは、転生して幸せを手に入れました。  おわり ✤ 2025/2/25 改稿版に差し替えました。
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