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⑨ 思いを伝えました
ヘレンとヘンリーに顔を見せ簡単に事情を話すと、これでもかと思うくらいに目を見開いて驚いていた。
特にライオネルは見た目もすっかり変わってしまったので、はじめは戸惑っていたようだった。けどやっぱり中身はライオネルのままだとわかると、何度も良かったね良かったねと涙ぐみながら抱きしめてくれた。
そして、ライオネル……ううん、僕がずっと会いたいと願っていた『レオ』と一緒に部屋へ戻った。
「レオって呼んで良いかな?」
僕は、ちょっと申し訳ない気持ちでそう尋ねた。
だって、ライオネルとして生きてきたのに、僕がレオと呼びたいから呼ぶって、自分勝手かなって思っちゃったんだ。
でもレオは、はにかんだような笑顔を見せて言った。
「アルが好きなように呼んでいいよ。……両方の記憶があるからなんか不思議な気分だな」
そうだ。僕は前世の記憶を持ったままで転生したから違和感はなかったけど、レオはついさっき記憶を取り戻したばかりだ。頭の中の整理も追いついていないかもしれない。
「レオ。僕が考えなしに、あの人について行ってしまってごめんなさい。心配かけちゃったよね。……でも僕、本当にレオに再会できたと思って嬉しくなっちゃったんだ」
「アルの気持ちは嬉しいけど、本当にすごく心配したんだよ。今度からは、ちゃんと相談してね」
「うん。……僕ね、猫の時にレオに大切にしてもらったの、ずっとありがとうって伝えたかったの。レオに会えてよかった!」
僕はやっと、本物のレオに伝えたかった言葉を言えた。
ありがとうって言葉は、魔法の言葉だ。僕の心もぽかぽかと暖かくなる。
「俺の方こそ、いつも癒やしてくれてありがとうな。猫の時のアルに話したけど、俺は家族仲が良い方じゃなかったんだ」
そう。レオは家族との折り合いが悪く、家を飛び出し一人暮らしをしていると言っていた。そして、家族との連絡も一切絶っていると。
そんな時に、同じく一人ぼっちだった僕を見つけて、連れ帰ってくれたんだって。
「俺にも家族ができたんだと思って嬉しかった。病気がわかった時は悲しかったけど、逃げたり怒ったりしないでいつも治療を頑張っていたよな。そんなアルに励まされたんだ」
「そんなふうに思ってくれてたんだね」
レオは静かにうなずいた。そして一呼吸置くと、再び静かに話しだした。
「アルと別れたあと、実家に顔を出しに行ったんだ」
「え?」
思いもよらなかった言葉に、僕は驚いた。だって、もう二度と会うことはないだろうって言っていたから。
「アルと過ごす日々の中で、家族のありがたみを知ったんだ。このままじゃいけないと思って、家族と話をしてきた」
「それで……?」
「まだぎこちなさは残るけど、和解できたよ。アルのおかげだ、ありがとう」
「良かった」
「でもまぁ、その後俺も事故にあっちゃったけどな。けど、最後に和解できたから本当に良かった」
レオの人生に、僕は少しは役に立っていたみたいだ。嬉しいな。
でも、レオは事故に合いそうだった猫を助けて……。
「アルと別れたあと、心にポッカリと穴が空いてしまったようで、生まれ変わったら……なんて考えるようになった。そしたら人間同士とか、猫同士とか、同じ目線で触れ合えるのにって強く願ったんだ」
「うそ……。レオも、僕と同じことを思ってくれていたんだ……」
「もし願いが叶うのなら、今度は家族としてじゃなくて……」
レオはそこまで言って、僕の瞳をまっすぐ見つめた。今までのレオの瞳とは違って、僕の心臓はドキンと跳ねた。期待と多分違うっていう思いが交差する。
「アルは、俺のことを家族だと思っていたかもしれないけど、猫相手に何をって思うかもしれないけど、アルが人間だったら良かったのにって何度も思ったんだ。でもそんなことは絶対叶わない夢だと思っていた」
「レ……オ?」
「けど今なら、俺の願いは叶うかもしれない。だから、伝えてもいいかな?」
「……っ」
僕は息を呑んだ。期待と不安だった心は、今は期待だけがどんどん膨らんでいく。
「……俺は、アルのことが好きだ。いちばん大切な存在だ。だから……叶うのならば、アルと恋人になりたい」
レオはそう言うと、僕の前に手を差し出した。
僕はこの手をとってもいいのだろうか。
僕はレオのことが大好きだった。けど猫が人間に恋をしたって叶うことは絶対ない。だからこの想いは心の奥底にしまい込んでいたんだ。でも今は状況が違う。目の前には僕と同じ猫獣人として転生したレオがいる。思いを誤魔化すこともないし隠す必要もない。
思い切り、僕の本当の気持ちを伝えてもいいんだ。
僕は一瞬考えを巡らせたけど、迷うことなんてないとそう思ったら、自然とレオが差し出した手を取っていた。
「僕、ずっとレオのことが好きだった。……でも猫と人間だから、そんなのおかしいってずっと思ってて。なのに、まさかこんな形で叶うなんて……。僕も、レオと恋人になりたい!」
僕の言葉をしっかりと最後まで聞いていたレオは、僕が握り返した手をぐっと引き寄せ、僕の体を包みこんだ。
「はぁぁぁ、良かった。記憶が戻ったばかりでこんなこと言って、嫌がられたらどうしようかと思ってたんだ」
「そんなことないよ! 僕だって、猫の時からの思いを知られたら、おかしいって言われるかと思って気持ちに蓋をしてたんだよ」
僕がレオの胸から顔を上げると、お互いに顔を見合わせ、ふっと笑いあった。レオの笑顔はとても優しい。
「僕、夢でも見てるのかな」
「それなら、二人で同じ夢を見てるんだな」
「うん、きっとそうだね」
僕は嬉しくなって、猫だった時にレオの胸の中でやったように、顔をスリスリと擦り付けた。
「アル、これからもっと思い出をたくさん作っていこうね」
レオは僕の髪の毛に、チュッとキスを落とした。
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