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⑧ 神様の登場です
万事休す。……そう思った時、レオの振りをしていた誘拐犯目掛けて、何かが飛んできた。
その何かが犯人をキュルキュルっと拘束すると、アルの入っているキャリーが手から離れた。
あっ……! 地面に叩きつけられる!
そう思った瞬間、アルの入ったキャリーは地面直前でキュッと止まると、静かに着地した。
……えっ!?
誰もがその光景を見て、我が目を疑った。
まるで魔法でも使ったかのような、不自然な動き。
犯人を拘束した縄だって、光が飛んできて、神業のように瞬時に身体全体を縛り付けたのだ。
「まったく、平和な街を乱さないでもらえるかな?」
皆で呆然としている中、呆れ気味の声がしたので振り返ると、やれやれといったふうに肩をすくめている、人間の姿になっているネムがいた。
「ライオネル。遅くなってごめん。……みんなも、ごめんな」
「なんでネムが謝るんだ?」
「俺が、この街の守護神だから」
……ん??
全員で、再び目が点になる。
「え? 今、なんて?」
「俺が、この街の守り神」
「はぁぁぁ!?」
「本来ならば、上から見守るんだけどさ、一度試しに降りてきたら、居心地が良くてさ。ついつい、留守にしてこっちに居座っちゃってたんだよ」
「そんなふざけた神様、いるのか!?」
「ふざけてないさ。この街の住民は優しくて温かくて、勤勉で頑張り屋で。……近くで応援していたくなったんだよ」
ニコニコしながら、ボンッとゴリラ獣人の姿に変身した。
「この姿もなかなかのお気に入りでね。……かっこいいだろう?」
ゴリラ獣人ネム……ではなく、神様がゴリラの姿のまま、くるりと回ってみせた。
「あ、そうだ。アル、こっちにおいで」
急に思い出したように、キャリーに閉じ込められていたアルに向かって、ちょいっと指を振ると、キャリーが消えてアルが出てきた。
そして、ぼわんと猫獣人の姿になった。
「これで良し。……ごめんね、転生してきた時俺が不在だったから、中途半端になっちゃって。ライオネルも、本来の姿にしてやるよ」
もう一度ちょいっと指を振ると、アルのよく知る『レオ』が目の前に現れた。
「え……? レオ? 本物のレオなの?」
「え……? 俺が……レオ?」
アルが驚くのはもちろんだけど、自分の姿が変わった挙げ句に、アルに『レオなの?』そう問いかけられているライオネルも訳が分からない。
ネム(神様と言われると変な感じがするから、ネムのままで良いそうだ)の説明によると、アルがこの世を去ったあと、事故に合いそうだった猫を助けて、その衝撃で異世界転生をしたらしい。
アルは死後の転生。レオは死んだのではなく異世界へ弾き飛ばされたような形だったらしい。
その上、猫と人間という違いもあったため、転生時期がずれたのだろうと。
「レオもアルも、ちょうど俺が不在の時に来てさ。本来の手続きを取らずに転生しちゃったわけ。神から与えるべき力が弱いままだったから、一定の時間になると猫に戻っちゃったりしたんだね」
「じゃあ、俺が覚えていなかったのも、そのせい?」
「おそらくね。……本当に、不便をかけてしまってごめんね」
神様が頭を下げるというのは、どういう状況だろうか。明らかにおかしいだろう。
それに、ずっと頼りになる隣人だったネムが、神様だと言われても、いまいちピンとこない。
「また詳しい話は後日するから、今日は再会を祝して、二人ゆっくりしたらどうだ?」
ネムの提案に、二人で顔を見合わせ同時に頷いた。
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
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