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夢か現か ⑤
露木君の事は嫌いじゃない。でも、だからと言って、推しのNaoと二人暮らしだなんて、ハードルが高すぎる。
「あ~、どうしよう。俺、心臓持つのかな……」
顔を洗って、身支度を整えた俺は、恐る恐る扉を開けた。
途端に香って来る美味しそうな匂い。
キッチンで手際よく料理をする露木君の後ろ姿。よく見たらやっぱりNaoだ。
Naoと露木君が半分ずつ混ざったような不思議な感覚。
「いい匂い」
思わずそう呟くと、振り返った露木君が小さく笑った。
「もう出来るから、座って待ってろ」
「う、うん」
言われるがままテーブルに着席して、キッチンで料理する姿をぼんやり眺める。
なんか……。こうしてると、本当にNaoと一緒に暮らしてるみたいだ。
「椎名」
「は、はい!」
不意に呼ばれて、思わず変な声が出た。
「フッ。そんなに緊張しなくても取って食ったりしないから」
学校での印象と随分違う。学校では笑ったところなんて一度も見たことないし、こんなに話しているのも珍しい。
直接聞いてみようか? いや、でも。そんな事したら俺がリスナーだとバレてしまう。それはそれで恥ずかしいし、もしも違って、どんな番組なんだ? って聞かれたりしたら俺は答えられない。
悶々としている俺をよそに、テーブルの上には美味しそうなフレンチトーストとミニサラダ、ベーコンエッグなどの料理が次々と並べられていく。
「食っていいぞ」
「うん。ありがと」
向かい合わせて座って、手を合わせる。
「「いただきます」」
誰かと向かい合って朝ご飯を食べるなんて何年振りだろう。元々父さんは仕事ばかりで、ほとんど一緒に食事なんてしたことが無かった。
母さんは病気がちでずっと床に臥せっていたから、それこそもう10年位は一緒に食事をしていない。
「ん、んまいっ!」
露木君の作ったフレンチトーストは、外はカリッと中はフワフワで、メープルシロップがたっぷりかかっていてとても美味しい。ベーコンエッグも半熟で、俺の好みドンピシャすぎる。
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