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新たな日常 ⑨
今、同じ家の中で、扉一枚隔てた向こう側からこの動画を見てるなんて、なんかちょっと変な感じ。
『それで、今日は、動画もネタもないから、みんなの質問に答えて行きたいと思います。何か僕に聞きたい事がある人』
一瞬の静寂のあと、コメント欄の流れが尋常じゃない速さで加速し始める。
いつもなら、真っ先に食いつくところなんだけど、ちょっとだけ躊躇ってしまった。
露木君は俺がリスナーだって気付いていない筈だ。 だって言ってないし。見てるって言う事に気付かれるのは何となく恥ずかしい。でも、折角だし、何か一つくらい質問してもいいかな?
質問、何がいいかな? うーん……。
「好きな人、居ますか?」
なんてベタな質問なんだろう。 聞きたい事はたくさんあるけど、一番に思いついたのがコレなんて、自分のボキャブラリーのなさに辟易する。
でも、どうせこんなに沢山コメント来てるんだし、俺のは直ぐに流されて露木くんの目に留まるわけないし、それに、みんな知りたいって思ってるはずだし。
いいや。送信しちゃえ!
もっともらしい言い訳を並べながら送信ボタンを押せば、案の定、動画の上に表示されていたコメントがあっという間に流されていく。
『あ! blueroseちゃんだ。いつもありがとう。好きな人かぁ……。うん、居るよ』
「!?」
俺は思わず息を呑んだ。この間もピンポイントで指名してくれたのに、今日も俺のコメントに気付くなんて……。
偶然? って、いやいや! そんな事より!
「そっか……居るんだ。好きな人……」
どんな子? とか、年齢は? とか目まぐるしく流れていくコメント欄を追いながら俺は、思わず口を押える。
別に、露木君に好きな子が居たって、何も不思議は無いし。でも、なんか、なんかさ。
「モヤモヤ……する」
俺は、思わずそう呟いていた。 自分で聞いた癖に、地味にダメージを受けている自分が居る。
でも、
『実は、その子の事前から気になってたんだけど、縁あって今、その子の家に置いて貰ってるんだ』
「えっ」
思わずフリーズ。今、露木君なんて言った? 俺の耳がおかしくなければ、『その子の家に置いて貰ってる』って聞こえたんだけど!?
それって……。
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