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キミが好き
その日から数日。あの配信の言葉が片時も頭を離れず、なんとなく露木君とはギクシャクとした関係が続いていた。
学校では、極力目を合わせないようにしていたし、家での会話も必要最低限。配信もあれ以来見に行けてない。
そんな俺の行動が、逆に露木君の不信感を煽ってしまったのかもしれない。
いつものように夕飯を食べ終えて食器を洗っていると、突然背後から声を掛けられた。
「あのさ、明日帰りが少し遅くなりそうなんだ」
「そ、そうなんだ」
「新しいアパートが見つかりそうだから、内覧に行ってこようと思って」
「えっ!?」
驚きのあまり、手に持ってた茶碗が滑り、シンクの中でカチャンと派手な音を立てた。幸い、割れる事は無かったけど、そんな事より!
「新しいアパートって、そんないきなり……」
なんで急にそんな? いや、確かに次の住むところが決まるまでって約束だったけど。でも……。
なんとなく、この生活がずっと続くもんだと思ってたから、にわかには信じられなくて俺は、呆然と露木君を見上げた。
「……いつまでも、椎名に迷惑かけるわけにはいかないだろ? 他にも理由は色々とあるんだけど」
言いにくそうに、言葉を濁す露木君。
「別に……迷惑だなんて思った事ない。俺は、居てくれて凄く助かってるし、一緒に居て楽しいし、こんな生活がずっと続けばいいなって思ってた。けど、露木君は違ったんだ……」
そう言葉に出したら、ツンと鼻の奥が痛くなって胸がグッと苦しくなった。
「椎名……」
露木君は、そんな俺の顔を見て少し困った様に眉尻を下げた。
「そんな顔しないでよ」
そっと、包み込むように露木君の大きな手が頬に触れた。それがあまりにも優しくて、思わず泣きそうになってしまう。
「別にキミを泣かせたいわけじゃないんだ。実は僕も、椎名といると面白いし、居心地がいいというか……。毎日が凄く楽しくて充実してるって言うか……」
「だったら、そんなに急いで家を探さなくったっていいじゃないか」
俺の言葉に、露木君は小さく溜息を吐いて俺の頬に触れていた手をそっと離した
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