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初めての……⑩

「……っ、くすぐったいよ」 身を捩るが、露木君は離してくれる気配がなくて、それどころか強く吸い付いてきた。チリッと小さな痛みが走る。 「あ……痕付けちゃダメだってば……!」 「大丈夫。見えない所に付けたから」 露木君は悪びれた様子も無くそう言うと、ちゅっと音を立てて耳朶にキスをした。そう言う問題じゃないのに。 口で露木君に勝てた事なんて今まで一度もない。でも、いつまでも露木君のペースに呑まれていたら身体がいくつあっても足りない。 取り敢えず、この甘ったるい雰囲気を何とかしたくて身を捩ると視界の端に壁に埋め込まれたテレビが目に止まった。 「つ、露木君っ!ほ、ほらっ、テレビがあるよ! 何か見ようよ」 「え? いいけどそのテレビは――……」 露木君の返事を待たずにテレビのスイッチを押す。すると画面に映し出された映像に思わずギョッとして硬直した。 「っ、なにこれ!?」 そこに映っていたのは男女が激しく絡み合っているシーンだった。しかも画面の中の二人は裸だ。 いやらしい喘ぎ声が狭い浴室内に響き渡り、気まずいやら、恥ずかしいやらで、慌ててテレビの電源を切った。 「う……っわ」 「ふぅん、環はこういうプレイが好みだったんだ。知らなかったなぁ」 「ち、違っ……い、今のは無しっ!!」 露木君がニヤニヤしながらからかってくるので、俺は慌てて否定した。 「違うって、何が?」 「だ、だからっ……今のはその……」 「何?ちゃんと言って?」 「……っ、もぉ! わかってるくせに!」 俺が顔を真っ赤にして叫ぶと露木さんはクスクスと笑いながら抱きしめて来る。 「あはは、ごめん、ごめん。環があまりにも可愛いからつい、ね」 「っ、ばか」 口ではそう言いながら、顔を背けて小さく悪態を吐くと露木君は俺の旋毛に口付けた。しばらく二人で湯船につかりながら他愛もない話をしていたけど、ふと会話が途切れて沈黙が流れる。 「……そろそろ上がろうか」 「えっ、あ……うん」 露木君に促されて浴槽から立ち上がろうとした瞬間、不意に足元がふらついた。力が入らなくてその場にへたり込みそうになった所を慌てて支えられる。 「環!?」 「……っ、ごめん……なんか、力抜けちゃって」 「大丈夫?のぼせたかな?」 心配そうな表情を浮かべながら顔を覗き込まれてドキリとした。露木君の長い前髪は濡れていて顔に影を落としているせいか、普段より大人びて見える。そのせいなのか妙にドキドキしてしまって落ち着かない気持ちになった。

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