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欲求不満 ⑤

俺が何も言えずに俯いていると露木君は小さく溜息を吐いて、俺の前にしゃがみ込むと視線を合わせてきた。 「ねぇ環。その後ろに隠してるものはなに?」 「……っ」 名前を呼ばれて思わず顔を上げると視線が絡み合う。露木君の目はが眇められ、口元は薄く笑みを浮かべている。 おそらく確信をもって聞いているのだろう。そうわかるような言い方だった。 「えっと……これは、その」 「見せて?」 露木君の有無を言わせぬ口調に言い訳も思いつかず、悪あがきしても無駄だと悟った俺は観念して、おずおずと手を差し出した。すると露木君は俺の手からローターを奪い取るとスイッチを入れて振動させる。 ブブブッという鈍い音と共に小刻みに震えるそれを目の前に差し出され、俺はごくりと生唾を飲み込んだ。 「これを使って、一人でしようとしてたの?」 「……や、そ、そう言うわけじゃ……ない、けど」 露木君の声はいつも通りの穏やかなものなのに、何故か責められているような気がして居た堪れない気持ちになる。俺は俯いたまま視線を彷徨わせた。すると露木君は俺の顎を掴んで強引に上向かせると視線を合わせてくる。 「じゃあどうして? 環は僕の部屋で何してたのかな?」 「それは……」 露木君の口調は優しいけれど目が全然笑ってない。 「そのっ、配信聴いてたら無性に露木君が恋しくなって……。そりゃ、勝手に部屋に入っちゃったのは悪いと思ってるけどさ……。寂しかったから」 「……っ」 俺が正直にそう告げると露木君は何故か一瞬言葉に詰まった。視線だけを上げてそろりと見上げると、露木君は口元を手で覆って俺から視線を逸らす。 「……え? どうしたの?」 「いや、ちょっと……不意打ち過ぎて」 「は?」 意味がわからず首を傾げると露木君は困ったように眉を下げて苦笑した。そして俺の頭を優しく撫でる。その仕草はまるで愛おしいものを見るようで、心臓がドキドキした。

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