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1.純愛吸血鬼Ωと執着神官α
君に両思いをあげる
愛なんて便利な言葉に名前をつけて
君に触れた
純愛の証が手のひらにある
心が満たされるのは、ただ一人。
愛しいハイドランジェアだけ
両思いだった君から返された
ミモザのブローチが手の平に転がる。
ミモザの花言葉は、四つ。
最後に一つが一番大切だ
白いミモザの花言葉
「死を超える愛」
★★★ 北の国の雪どけの国境地帯
北の国は氷と雪に囲まれながら、内側に亜熱帯を抱える特殊な環境を持っている。
「ハイドランジェア早く!」
「待ってよレオニダス。僕は乗馬は苦手だ」
15歳のαの神官レオニダスと宝石の如く美しいΩの吸血鬼ハイドランジェアの二人が早春の青い空の下を白馬で駆ける。
「ハイドランジェア、今日は初代国王を讃える春の感謝祭だね。この国の国花であるミモザの花言葉を知ってる?」
「もちろん知ってるよ。友情、感謝、そして秘密の愛だよね。レオニダス、誰にミモザをあげるつもり?」
春の感謝祭では、ミモザの花を日頃の感謝をこめて親しい人に贈るのが、国民の伝統だ。
若者は、この日に花と一緒に愛の告白をするのが流行りになっていた。
「君だよ、ハイドランジェア。今日の夜、式典が終わったら絶対に僕の部屋に来てくれないか?」
レオニダスは碧い瞳で真剣に語りかけた。
白馬の上で宝石の如く美しい、この国ただ一人の神巫である、Ωの吸血鬼が少年を見つめ返した。
「ごめんなさい」
エメラルドのような孔雀緑の長い髪が早春の風に悩ましげに光り輝やいた。
「夜は『お役目』がある」
ハイドランジェアは、うつむき苦しげにつげる。
「大切な物を渡したいんだ。今日だけだ。お願い!」レオニダス白馬でハイドランジェアに駆け寄った。
Ωのハイドランジェアの母親は、この国の二大派閥の一人である吸血鬼の王、鬼王ミスカンサスだ。彼は、母親の命令で人間のα達と関係をもつよう『お役目』を受けていた。
しかし、ハイドランジェアは、この純粋な15歳の第二王子を小さな頃から愛していた。
「僕も…キミといたい。母様に聞いてからでもいい?」
「わかった。まってる」
ハイドランジェアの言葉を信じてレオニダスは、北の国の第三城壁内に入って行った。
レオニダスは、ポケットをそっと触った。この日の為に用意したミモザの花を模したペリドットとエメラルドのブローチがある。
「今日こそは、ハイドランジェアと告白して、一緒になるって決めたんだ」
一五歳のレオニダスは、初恋のオメガの吸血鬼に年齢を理由に振られていた。
弟にしか見れない。未成年とは付き合えないと……。
「俺は知っているんだ、告白のたびに忘却の牙で記憶をけされていることを!今日は白いミモザを用意したから記憶はけされない」
白いミモザを身につければ、吸血鬼の牙が効かない。王族しかしらない秘密だ。
城壁内に入っていく、レオニダスをみてハイドランジェアはため息をつく。
「もう忘却の牙なんて使いたくない…」と、ハイドランジェアはつぶやいた。レオニダスの告白を聞くたびに記憶を消してきたけれど、それがどれだけ辛かったかは誰にも分からない。
「真面目で純粋な僕の大切なレオニダス。
君のことは小さい頃から見てきた。愛してる。大好きだよ。でも、母様はレオニダスと恋人になることも、番になることも許さない」
ポタポタと真珠の涙が若草色の瞳から溢れる。
「それなのに、母様は、僕を支配するためにレオニダスの血でしか栄養が取れないように君を作った。君を自由にしたい」
ハイドランジェアは、鬼王ミスカンサスに支配され自由はない。
「レオニダスと本当の両思いになれたらいいのにね…」
切ない呟きは早春の冷たい風にかき消えた。
レオニダススは、王子と神官の仕事をおえて夜をまった。
胸のポケットには、吸血鬼の牙の能力がきかない白いミモザが入っていた。
王族しかしらない秘密だ。
★★★ 北の国第二王子 レオニダスの寝室
蝋燭の温かい灯りが白いシーツを照らす
格調高い家具が置かれた天井の高い、広い部屋にはシャンデリアが浮かび。
蝋燭の光のもと、レオニダスはハイドランジェアに借りた物理学の本を読んでいた。
「もう深夜だ、遅いな。」
レオニダスは眠い目をこすったが、船を漕ぐのを我慢した。
ハイドランジェアは、今まで約束を一度もやぶった事はない。だとすると、レオニダスが寝付くのを待って、吸血鬼の牙の力で記憶を消す算段ではないだろうか?
(わざと寝てみるか)
レオニダスは目を閉じる。暫くすると部屋の扉の前で気配がする。
ペタペタと足音がして、ハイドランジェアの金木犀のフェロモンの香りがした。
「晩くなって、ごめんね。
君は眠ってしまったね。
母様に……鬼王ミスカンサスに、レオニダスと番になっていいか聞いたんだ。」
泣き声が近くによって来て、ハイドランジェアは寝台にあがる。そのまま、レオニダスの胸の上に、頬を寄せて抱きついてきた。
服に涙の湿った感触がした。
「母様に、君との番契約は断られた。かわりに、龍界の王子、黒龍雅麟を籠絡するように言われちゃった…」
(そんな事を認められるか!)
レオニダスは起き上がるのを必死に我慢した。
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