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第1話
「リオ!」
「あ?」
仕事から帰宅後、風呂を済ませろくに髪も乾かさずに吸血鬼用人工血液パックを吸うパートナー、リオの前に腕を組み仁王立ちする。
リオは怪訝な表情をし、こちらに視線を向ける。
「俺は明日仕事休み!」
「だからなんだ?」
勘の鈍いリオは二つ目のパックに手を伸ばす。
その手を掴んで自らの頬に当てがう。そして猫撫で声で誘う。
「今日は俺の血吸って」
精一杯の誘惑。どうだ。流石のリオもこれには勝てないだろう。
「誰が吸うか、ボケ!」
「はぁ?ボケはどっちだ」
掴んでいたリオの手を払い、リオの膝の上に座り胸ぐらを掴む。
「リオ、お前いい加減にしろよ。なんでお前の大学卒業と同時に入籍してやったと思ってる」
「あ?俺のことが好きだからだろ」
「そうだよ!好きだから、早く俺の血吸わせたいからだよ」
この世界では吸血鬼の吸血行為は入籍後そのパートナーからに限定されている。
それまでは人工血液パックか人間の食べる食料で腹を満たすことになっている。稀に人間の食事が舌に合わず摂取できず、人工血液パックでも飢えを凌げなかった吸血鬼が人を襲い事件になっているが、人間と吸血鬼が共存し始めた数百年前からこの法律は変わっていない。
「うっせぇな…好きだから吸わねぇって何回言えばわかるんだよ。年上のくせに物分かりが悪りぃな」
「年は関係ないだろ!吸血童貞!いい加減俺で童貞卒業しろ!」
「はいはい、いつかな。いつか吸わせてもらう」
リオは呆れた表情をして、薄い唇で俺の唇を塞いだ。
「パック冷えたからあっためとけ俺はトイレ」
リオは俺を膝の上からソファーに降ろし、未開封の人工血液パックを俺の太ももに挟み込んでトイレに向かった。
太ももに挟まったパックを手に取り、キッチンに向かい、少しだけ冷めたケトルの中のお湯をパックに豪快にかけた。
「俺の体温で温めてなんかやるかよ」
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