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第23話
「疲れただろ。ごめんな、面倒な家で」
帰りのタクシーの車内、リオは外の流れる景色を見ながら小さく呟いた。
「リオの家族にもやっと会えたし、何よりご飯美味しかったし、参加できてよかったよ。リオの家の大切なイベントには、また参加させてね」
リオは外を眺めたまま、小さく頷いた。
タクシーを降り、砂利の駐車場を歩きアパートに向かう。
冬の二十一時過ぎ、足元は真っ暗。慣れないブーツで足が十分に上がらなかった。駐車枠を引く細いロープに足を引っ掛け、盛大に転んでしまった。
「いった……」
「晴輝!?」
「はずかし…大丈夫大丈夫。あー、服大丈夫かな」
立ち上がり、服を払う。
汚れを払う手の平に違和感。
「怪我してんじゃねぇか」
右手をよく見れば、砂利で盛大に擦りむいてしまったのか、出血している。
「早く手当すんぞ、商売道具だろ」
リオは俺の手を引く。
自宅の洗面台まで連れ込まれ、汚れと血の付着した手を流水で流す。
「リオ」
変だ。何かわからないけど、リオが冷静じゃないことだけはわかる。
「ねぇ、リオ」
蛇口を撚り水を止め、リオの左手を左手で掴む。
「何かおかしいよ。どうしたの?」
リオの顔を見れば、リオは涎を垂らしながら首筋に汗を伝わせていた。
直ぐにわかった。血が欲しいのだと。
「舐めたい?」
わざわざ聞くなんて意地悪だ。
「いいよ」
リオはまるで獣のように呼吸を荒くしながら血の流れる手を口元に近づける。けれど直ぐに距離を取り、自分の口元に手を当てる。
あぁ、もどかしい。
流れる血を舐めることもできないリオは、一体いつになったら自ら歯を立て吸血できるようになるのだろうか。
自らの傷口に唇を当て、血を吸い上げる。
リオの口元を押さえた手を退け、壁に押しやり無理矢理唇を重ね、唾液と入り混じった僅かな血液をリオの口内に流し込む。
「満たされた?」
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