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「では、あの⋯⋯安野さんに訊きたいことがあるんですけど⋯⋯」
「えっ! 私に訊きたいことがあるんですか! なんですかなんですか!!」
「あ⋯⋯っと、そんな大したことではないのですけど⋯⋯どうして、安野さんはこの仕事をしているのですか⋯⋯?」
このような仕事、どこでどうやって見つけるのだろう。自分の世話すらまともにできなくなってしまった姫宮からすれば、人様の世話をするのは尊敬に値するものだった。その程度で姫宮は訊ねた。
しかし、自分のことを訊いてくれて嬉しいという表情をしていたのが、見る見るうちに強ばってしまったのだ。
何故、そのような反応をするのか。
混乱していたが、姫宮は血の気が引いた。
訊いてはいけなかった。
「すみません、なんでもないです」
「いいのです。姫宮様は気になったんですもんね」
「ずっと立たせてしまい、申し訳ありません。席に座ってください」といつもの窓側の椅子を引く安野に言われるがまま座った。
「今、紅茶を淹れますね」
その足でダイニングに向かった安野を目で追った。
江藤の姿を見かけないが、何かの用事で出ているか、上山と行動しているのかもしれない。
けれど、誰かもう一人いて欲しいと思った。この淹れている間の沈黙が落ち着かない。
いつもの調子であれば、安野がずっと喋っているはずなのに、その安野が黙りとしていた。
やはり、訊いてはいけないことだったのでは。
「お待たせしました。飲めるぐらいの温度にしておきましたよ」
「いつもすみません⋯⋯」
「いえいえ、このくらいことはなんてことないですよ」
にこりと笑う。その様子だといつもの安野だ。
少し安堵をしてしまったが、それでも緊張は解れない。
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