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泣きつく形で安野が捲し立てるように言い、その迫力に押し潰されそうになりながら姫宮は何とか言った。 嬉しくなさそうに言ったかもしれないが、本当は嬉しいのだ。 普段作ってもらっている料理も絶妙に美味しい。 そんな安野が作るお菓子が食べられるのが密かに楽しみだった。 口の中が安野特製プリンの味になる前に、思考を切り替えた。 「あ、あの、上山さんっていますか」 「え? 上山⋯⋯? 上山はいませんけど、何か用でしたか?」 「あ、いえ⋯⋯用ではないのですけど⋯⋯」 本人がいない今がちょうどいい。 緊張で口の中が渇いていくのを唾でどうにか潤した姫宮は、ゆっくりと口を開いた。 「上山さんのことで訊きたいことがあるんです」 先ほどの出来事を何とか説明し、大河が上山を見る目に対して訊ねてみる。ところが、安野は「うーん⋯⋯」と眉を寄せた。 「さぁ⋯⋯何ででしょうね⋯⋯。今井以外は今回初めて会う面々でしたし」 「そうだったんですか」 「はい。今井とは以前一緒になったことがありまして、顔見知りだったのですけど」 そう言う割には前から知り合いだったように連携が取れ、親しげにお喋りまでしているのをよく見かける。 そうなるように上手く取り持つ人がいるのかもしれない。極端に性格が曲がっている人がいないからかもしれない。 そうじゃなければ、世間から疎まれているオメガに親しくなんてしない。 「そういうことでしたら、知らないですよね。すみません⋯⋯」 「そんな謝ることではありませんよ! むしろ、私達に興味を持って頂いて、大変嬉しく思います。そうやって訊きたいと思うのは相手のことを知りたいと思ったからですもんね。根本はご愛息に何らか関係しているからですけど」 「はい⋯⋯」 「きっかけはどうあれ、訊きたいと思ったから行動したという点は、今までの姫宮様からは考えられないことでした。少しお変わりになりましたね」 安野の言う通り、自分だけであれば何かに興味を持って行動を起こすことはなかった。 相手に言われるがまま、されるがままだった自分を変えてくれたのは大河がいたからこそでもあるが、今回のように大河の行動の理由を知りたいと訊いてもきちんと聞いてくれる人がいたからこそでもあった。 そして、こうやって少しの成長を自分のことのように喜んでくれる人がいる。

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