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52.
玲美と伶介は「いつまでもお邪魔するわけにはいかないから」と建前で言って帰っていった。
帰り際まで伶介は大河のことを心配してくれていたが、当の本人はけろっとしており、伶介にばいばいと手を振っていた。
しかし、どこか寂しげに見えたのは、夢中になるほど楽しく遊んでいたのを見ていたからかもしれない。
大河の心情は分からないが、恐らく。
小口に大河のことを託し、大河の部屋に行ってもらうように言い、姫宮はリビングの方へ向かった。
「姫宮様っ! 誠に申し訳ございません!」
入った途端、安野が勢いよく頭を下げた。
それはもうその勢いのまま床に叩きつけるのかと思うぐらいに。
「えっと⋯⋯安野さんが私に謝られることをしましたっけ⋯⋯」
「ええ、しました! 大きな罪です! きっと大河様のためにお作りになった全てのプリンをあげるつもりだったのだと思います! それを私の本当に勝手な判断であげてしまいました⋯⋯!」
わっと騒ぐ安野に拍子抜けしてしまった。
そんなこと別に気にしてないのに。
「ああでもしないと、大河はプリンを落としてしまったかもしれませんし、伶介くんが可哀想でしたし、結果的に伶介くんと松下さんが美味しいって言ってくれたので、安野さんのおかげとも言えます。お礼をしたいぐらいです」
「ああ! なんてお優しい言葉! 私のような者に慈悲を与えてくださるのですね⋯⋯! 今度私が姫宮様のために丹精込めたプリンをお作りしますね!」
「えぇ⋯⋯嬉しいです⋯⋯」
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