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今、大河と対面している。 緊張した面持ちでいるせいか、いつもよりも顔を強ばらせた大河が目を合わせないようにしている。 こうしているのには理由があった。 今朝、大寝坊をしてしまい、大慌てでリビングに向かうと先に着席していた大河がいた。 その事に関してはなんら不思議ではない。問題は、そのすぐそばに小口の姿がなかったことだ。 辺りを見回していると、「ゆっくり寝られましたか?」という安野の穏やかな声が聞こえた。 すぐに小口はどうしたのかと訊ねると、「小口から何も聞いてないのですか?」と不思議そうに、されどやや怒っているように言った。 なんでも外せない用事があって、どうしても休みたいからだという。 大河と会ってから今までずっといてくれた。それは休みがなく働き詰めということを意味するわけで、と言いたいところだが、彼女の場合、働いているとは到底思えない。 それはさておき、今まで何かと大会の架け橋となってくれた。それに本来の役目である母親として我が子と接する絶好の機会だ。いいところ、というのは難しいかもしれないが、ほんの少しでも仲良くしたい。 「肝心なことを姫宮様に伝えないだなんて」とぶつぶつ文句言う安野に、姫宮はこう言った。 「小口さんはよくやってくれました。迷惑をかけていたのは私ですし、今までの分も頑張ります」 ──とは言ったものの。 二人きりになった途端、妙な緊張に包まれた空気になってしまうのは何故だろう。頑張ろうと必死になってしまって、力を入れているせいなのかもしれない。 気まずい。 これでは、一緒に過ごしてからまだ間もない頃のようではないか。 朝食の時のように背もたれに立てかけていたボードを介して何も返ってこないかもしれないが、一方的になるかもしれないが、何か話してみよう。 何かを。

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