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第21話 3章 手術
尚希が目覚めると、そこには優しい女神様、蒼の笑顔があった。
「おっ、目覚めたかな? 気分は悪くない」
まだ、少しぼんやりとしてはいるが、気分は悪くない。尚希は、小さく頷いた。
「手術は成功したよ。今日は麻酔の影響もあって、少しぼんやりすると思うけど、段々と晴れ渡ってくるからね」
そうか成功したんだ、良かった。そう思うと、蒼の後ろに尚久がいるのに気付く。
「頑張ったな、退院まで、あと少し頑張ろうな」
そう言って、頭を撫でてくれた。頑張ったのは、僕じゃなくて、先生なのにと思ったが、尚久の言葉は嬉しかった。そして、自分が目覚めた時に、側にいてくれたことが、凄く嬉しい。尚希は、心が温まるのを感じた。
二人が病室を出て行った後も、尚希の心は温かいままだった。蒼先生は、元々自分の主治医だから、毎日会えるだろう。尚久先生は? 手術が終わってからも来てくれるだろうか。来て欲しいな、毎日来て欲しいと思うのだった。
尚希の希望通り、尚久は毎日尚希の病室を訪れた。本来外科医は、手術が終わればその後の患者の診察はしない。それは主治医の役割だからだ。手術に専念するのが外科医なのだ。
しかし、尚久は尚希の様子が気になった。術後の経過というよりも、単に尚希の様子が気になるのだった。次の手術の準備もあるが、その合間に時間があれば、ひょいと尚希の顔を見に行くのだ。
いつも、意外な時に突然現れる尚久。蒼は、診察時と夕方帰宅前と、来る時間は大体決まっているので、尚希も予想できる。しかし、尚久が来るときは予想できないのだった。
その意外さに驚かされながら、いつしか心待ちにしていた。いつ来るのかな、早く来て欲しい……と思いながら。
食事は、家や学校で食べるより美味しい、だから楽しみだ。蒼の優しい笑顔も好きだ。けれど、一番の楽しみは尚久が来てくれること。それも、今日で終わり。明日は朝食後、診察があり問題なければ退院になる。
結局、母は手術の当日一度しか来なかった。しかも、その時尚希は、ぼんやりしていて、余り覚えていない。けれど、別に淋しいとは思わなかった。母は忙しいんだから、仕方ないと納得出来た。それは、入院生活に楽しみがあったから。
もう少し居たいけど無理だよな……と尚希は思う。学校も休んでいる。それが気にならないと言えば嘘になる。
「よっ! どうだ? 気分はいいか?」
尚希が物思いにふけっていると、いつも通り尚久が、ひょいと現れた。
「先生! 大丈夫です」
「そうか、顔色もいいな。蒼先生からも良い報告が上がっているから安心はしていた。いよいよ明日は退院だな」
退院の言葉に、尚希は少しうつむいた。
「どうした? 入院前とは全然世界が違うだろ」
それはそうだった。それこそ嘘のように、今までかかっていたもやが、消えたのだ。頭の中がすっきりとして、めまいや立ち眩みも皆無だった。尚久の言葉に頷きながら、尚希の顔は淋し気だった。
それを察したのか、どうか、尚久が尚希の顔が明るくなることを口にする。
「今週末、家へ遊びに来ないか?」
尚希の顔は、途端に明るくなるが、素直に頷けない。遠慮があるのだ。?
「えっ、で、でも……」
「なんか用事があるのか」
「ないけど……」
「だったらおいで。前にも言ったけど、小さい子がいて賑やかだけど、それがまた楽しいから」
漸く尚希は頷いた。そして、尚久と連絡先を交換した。それも凄く嬉しくて、尚希は、スマホをぎゅっと握りしめた。
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