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第20話 3章 手術

「おはよう!」 「おはようございます」  尚久と蒼が連れ立って尚希の病室へきた。明るい笑顔の二人に、尚希はほんのり頬を染めて答える。恥ずかし気な所も可愛いなあと、尚久は思う。コミュ障気味かもしれないと思ったが、それよりも、はにかみ屋なのかもしれない。 「どう、気分は? よく眠れた?」  蒼が聞きながら、診察する。手術前の最終チェックだ。 「うん、問題ないね。じゃあ、準備に入るから。尚希君は何も心配しなくていい。尚久先生に任せようね」  蒼の言葉に、尚希は頷き、そして傍らの尚久を見上げる。尚久は、安心させるように大きく頷き、そして頭を撫でてやる。 「じゃあ、私も準備があるので」 「うん、よろしくね」  分かっています。大丈夫ですよという気持ちで、手を上げて、尚久は、病室を出て行った。その後ろ姿が、凄く格好良くて、尚希は胸がときめいた。  尚希の手術は、いつも通り淡々とするという尚久の思いとは裏腹に、大いなる注目の中で始まり、そして終わった。 「さすがの出来でしたね。大したもんだ! 感心しました」  彰久の素直な感嘆の声に、高久、雪哉も大きく頷く。 「ああ、お前にも十分匹敵する。これでうちの脳外科は安心だ」 「そうですね、息子二人、立派にあなたの後継者に育ってくれた」 「蒼も雪哉の立派な後継者だからな。三人揃ってうちは安泰だ」  三人はその興奮冷めやらない思いのまま、手術室から出てくる尚久を出迎える。蒼も一緒だ。 「尚久、見事だった!」  父が手放しでほめてくれた、それが嬉しい。尚久は大きく頷いた。 「流れるような速さで、ほんと、見事だった!」  そして、蒼の心からの賛辞は、何よりも嬉しい。思い切って帰国して良かったと思えるのだった。  尚久の手術の素晴らしさは、病院中に、瞬く間に伝わった。三人揃って安泰の話は、何故か三本の矢の話になっていた。 「三本の矢は折れないってあるじゃないの、それよ」 「そうよ、鬼に金棒よ」 「彰久先生と尚久先生もまだ若いのに凄いけど、蒼先生も立派よね」 「そうよ、副院長の立派な後継者。ただ、同じオメガだけどタイプは違うよね」 「そうね、副院長はオメガとは思えない貫禄があるもんね。蒼先生は、オメガらしいって言うか、優しいのよ」 「なんせ、女神様だからね」  結局、蒼が女神様なんだというところで、話は終わる。蒼は、誰しもが認める、北畠総合病院の女神様なのだ。

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