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第23話 4章 北畠家

 玄関の前で固まっている尚希をよそに、尚久は玄関を勢いよく開ける。 「ただいま! 尚希君連れて来たよ」  すると、奥からたたたっーと音がして、小さい男の子が現れた。 「おじちゃまーっ、おかえりなしゃい」 「はる君だいま、尚希君だよ。ご挨拶しなさい」 「なっくん、こんにちは。ぼく、はっくんだよ」  この子が春久君か、確かに可愛い子だな。凄く人懐っこい。 「やあ、尚希君、よく来たね。こんな感じで賑やかな所だけど、中へ入って」  春久の後ろから現れた蒼に導かれ、尚希は緊張の面持ちでリビングへ入る。とても開放的で明るい北畠家のリビング。そこには、もう一人男性がいた。蒼と同じような体型の年配の男性だ。 「紹介しよう。萩原尚希君。こちらが僕たちの母で、病院では副院長だね」  この人が副院長! どうしよう、挨拶しないと。尚希が緊張して、言葉を発する前に、雪哉から声をかける。 「尚希君よく来たね。まあ、こんな所だが、ゆっくりしていきなさい」 「あっ、はい。初めましてこんにちは。今日は、お邪魔します」 「そんなに緊張することないよ。院長と彰久は学会でね留守なんだ」  尚希は助かったと思った。これで、その二人までいたら、ちょっと無理……帰りたくなる。  春久が、尚希の手を握り「こっちだよ」と言うので、付いて行くと、積み木が所狭しとある。春久は積み木で遊んでいたようで、積みかけていたものに、更に積んでいく。  尚希は、その様子を見ている。ただ見ているだけ。どうしていいのか分からない。春久は、時折尚希を見ると、ニコッと笑い、また積み木を積んでいく。  何を作っているんだろう……分からない。ただ積んでいるようにも見えるし、何かを作っているようにも見える。コミニケション力があれば、聞けるのだろうが、尚希にはそれができない。  尚希はただそこにいるだけで、一時が過ぎる。 「ふふっ、楽しそうだな」  蒼が声を掛けると、春久が満面の笑みで頷く。 「尚希君、ありがとう。遊んでくれて」  蒼の言葉に、えっ! 僕何もしていないけどと、尚希は思う。 「おやつにしよう」 「わーい! おやつだあー!」 「はる君、尚希君と手を洗っておいで」 「うん、こっちだよ」  春久は尚希の手を引いて洗面所へ連れて行く。洗面台は二つあって、一つに踏み台があって、春久はそれに登って手を洗う。尚希は、それを見ながら、もう一つの洗面台で手を洗う。  洗い終わると、春久はまた尚希の手を引いてリビングへ戻ると、テーブルにクッキーがある。美味しそうなクッキーだ。 「尚希君、僕たち大人はコーヒーだけど、春久はジュースなんだ。どっちがいいかな?」 「僕もジュースで」 「なっくんもはっくんとおんなじだよ」  春久が、同志とばかりに喜ぶ。尚希は、コーヒーも飲むが、甘くしないと飲めない。なんだか、それも恥ずかしくて、ジュースにした。まあ、この中では大人の仲間というよりも、春久側だろうと、自分でも思う。  出されたジュースは、いつも尚希飲んでいるジュースと違い、とてもフレッシュで美味しい。多分、上等なジュースなんだろうな思いながら飲む。  そして、頂き物だというクッキーも美味しい。これも高級品なんだろうと思いながら食べる。春久も、満面の笑顔で、蒼の隣でクッキーを食べている。美味しそうに食べるなあと、尚希は微笑ましい思いで見る。

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