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第31話 5章 爽やかな風

「うわー!美味しそう!」  顔がほころぶ尚希、最初に会ったころは、余り表情の無い子だった。少しコミュ障気味で、そこも心配した。今も、積極性があるわけではないが、随分顔の表情が豊かになった。 「お腹一杯でも、デザートは入るんだよね」 「デザート別腹って、女子だろ」 「スイーツ男子もいるじゃん」  なんだかんだ言いながらニコニコと食べている。コーヒーにも砂糖を入れていて、よく甘くないなあと尚久は思う。勿論、尚久はブラックコーヒーだ。甘いデザートをコーヒーの苦みでリセットしながら食べるのだ。 「美味しかった、ごちそうさまでした」  いただきますと同じで、手を合わせて言う尚希。良い子だなあと、褒めてやりたいが、また拗ねるかもと思い、微笑むだけにする。 「さあ、送るよ」 「いいの?」 「いつも送るだろ」  尚希が北畠家へ来た時も、帰りは尚久が送っていく。 「そうだけど……いいのかなって思った」 「いいに決まってる。むしろこんな街中で別れたら危ないだろ」  危ない……なんで? よく分からないけど、まあいいかと尚希は思う。  尚久は、尚希を道路側へ守るよに歩いていく。尚希も、体格のいい尚久に守られていると感じる。少しドキドキする。  こんな風にして歩くのは初めて。会うのは、いつも北畠家。そして送ってもらうのも車だから。だから、少しドキドキするけど嬉しい。  尚希は、お腹も一杯で、心も一杯――そんな思いで尚久の隣で歩を進めていった。 「お母さん帰ってるかな」 「多分まだだと思う」 「そうか、一度挨拶したいけど、今度にするか」  尚希が北畠家へ来るようになった最初の頃に、一度挨拶した。とても丁寧な応対だった。悪い人ではない。ただ忙しすぎるのだろう、そういう印象を持った。  それから一度も会っていないので、再び会いたいとは思っているが、またの機会でいいだろうと、尚久は判断した。 「今日はありがとうございました」  自宅のマンションの前でぺこりと頭を下げるな尚希。尚久はその尚希の頭を、くしゅくしゅと撫でまわす。 「じゃあ、またな」  軽く手を上げて言うと、尚久は去って行った。  尚希は撫でられた頭に手をやり、やっぱり子供扱いだと思いながら、その温もりに、な残り惜しいものを感じる。

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