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第38話 6章 母への理解
「なっくん、みて!」
じゃーん! と春久がランドセルを背負ってくる。
「あっ、ランドセル! そうか、来年小学校入学だったね」
「そうだよ! はっくんね、いちねんせいっ!」
「うわーっ、はっくんかっこいいなあ!」
春久は、満面の笑顔で、ランドセルを背負ったまま歩き回る。
「もうね、買ってもらってから、嬉しく仕方ないみたいでね、毎日こうして背負って歩き回ってるんだよ」
蒼もニコニコ顔だ。
「ほんとに嬉しそうですね。紺色が落ち着いた感じでいいですね」
「うん、水色とかもあったけど、こっちのほうがいいかなって」
「はっくん良かったね。凄くかっこいいランドセル買ってもらって」
「うん、じーじがかってくれたの」
「そっか、おじいちゃんが買ってくれたんだ、優しいおじいちゃんだね」
「激甘じーじだから、じーじの方が早く買ってやりたくて、うずうずしてたんだよ」
雪哉の言葉に、尚希は思わず笑ってしまった。高久の、春久への激甘ぶりは、尚希も知っているので、その様子が容易に想像つく。とても、大きな病院の院長先生とは思えないのだ。
尚久も笑っているが、蒼はさすがにニコニコ顔のままだ。
ところで、その院長先生はいないのかな? 今日はまだ姿が見えない。
「院長先生はお出かけなんですか?」
「父さんと、兄さんは心臓外科医の会合があってね、出かけているよ」
「そう、今日は暑苦しい二人がいない」
再びの雪哉の、的を得た言葉に、尚久が爆笑する。尚希もつられて笑う。さすがの蒼も少し笑いを零す。
「暑苦しいって、まあ、その通りではあるけどね」
「北畠家の家系かもしれんからな、お前もそうなるかもだぞ」
「僕は、せいぜい気を付けますよ。爽やかをモットーにしますからね」
先生も暑苦しくなるのかなあ……それって、愛が深いってことだよね。先生は、どんな人と結ばれるのかなあ? 雪哉先生も、蒼先生もオメガだよな。やはり、先生の相手もオメガなのかなあ……。
この日も尚希は、北畠家で夕食をご馳走になった後、尚久に送ってもらい帰宅した。
帰宅した時、まだ母は帰っていなかったので、尚希はお風呂に入った。そして出てくると、母が帰宅していた。
「母さん帰ってたの」
「うん、今帰ってきたところ。北畠さんところ行ってたんでしょ。お土産渡した?」
「うん、凄く喜ばれた。母さんによろしく伝えてって言われた」
「そう、だったら良かった。結構吟味して選んだから」
そうか、結構考えて選んでくれたんだ。だからだろう、皆喜んでくれた。頂き物を早速だけどと、出してもらって自分も食べたけど、美味しかった。春久も美味しそうに食べていた。
「いつも、こんな時間に帰ってくるの?」
「そうだよ、夕飯食べてから、先生が送ってくれる」
「はあーっ、院長先生のお宅でご飯って、あなた緊張しないの?」
「まあ、最初はしたけど、今は慣れたかな。院長先生はお孫さんのはる君に激甘の普通のおじいさんだし」
「そうなんだ! 孫には甘いのか……人間味があるのね」
院長の高久の話に続いて、彰久の蒼べったりの話などもする。そして、蒼は家でもとても穏やかで優しい人である事も話すと、母はニコニコ顔で聞いている。こんなに母と会話が弾むのは本当に珍しい。いや、初めてのような気がする。
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