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第52話 8章 運命への恐れ

 この日の北畠家の夕食は、雪哉手作りのハンバーグ。勿論大好評だった。 「おばあ様のハンバーグも美味しいね」  満面の笑みで、パクパク食べながら春久が言う。 「元々私のが元祖だからな」 「元祖って?」 「一番最初って意味だよ。元々は母さんが作ってくれていたハンバーグを、僕と結惟お姉さまが引き継いだんだよ」 「そっかーっ、だから特別美味しいんだね」  北畠家のおふくろの味。これからも作り続けるし、春久や春久の配偶者にも引き継いで欲しいと思うのだった。 「自分で作るのも美味しいけど、ママが作るのは、やっぱり特別な感じ。でも久しぶりで疲れたでしょう。後片付けは私がするから」 「結惟ちゃん、僕も手伝うから」 「あお君は、今日はゆっくりして。僕が手伝うから大丈夫だよ」  結局後片付けは、尚久も加わった兄弟三人が済ませた。三人の思いやりと、優しさに蒼も素直に従った。  食後のコーヒーを飲みながら、幸せを噛みしめる蒼。  幸せだ――北畠家の一員になったことが、自分の幸せだ。この幸せへの恩返しは、院長として病院を盛り立てること。恐れおののく気持ちもあるが、やらねばならない。そうでないと、申し訳ない。  蒼は、闘志も心静かに燃やすのだった。  尚希は、尚久から病院の新体制を聞かされた。 「凄いなあ……蒼先生来年の四月から院長先生なんですね」 「女神のような院長の誕生だな。いや、女神が院長になるのか」 「それで、彰久先生が副院長なんですね」 「そうだよ、心臓外科部長と兼務で、あお君を支えるんだ」 「僕は逆だと思ってた。彰久先生が院長で、蒼先生が副院長って」 「あお君本人もそうだったみたいだけど、兄さんでは若すぎる。それに、あお君を院長にするのは、母さんの希望でもあった」  なるほど、そうなのか。若いといっても、アルファの彰久が、オメガの蒼を支えるって凄いことだと、尚希は思う。アルファがオメガの裏方になるってことなんだから、ヒエラルキーからしたら逆なのだ。  無論、蒼にそれだけの能力があるのも確かな事だけど、それを、受け入れ支えられることに感心する。尚希は、彰久の器の大きさに、感じ入るのだった。「彰久先生って、凄く人間の大きい人なんだな」 「ああ、そこは私も率直に認めている。あお君第一の暑苦しいだけの人じゃない。あの人は、本当に心からあお君を愛しているよ。そして、ただ愛するだけじゃない、あお君がより輝く事を望んでいるんだろうな」  そうなんだろうな……凄いなあ……。彰久の愛の深さにも感動するが、蒼が、その愛に相応しい人なんだと思う。  そして、これだけ強固な愛って、やっぱり運命の番だから――。

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