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第53話 8章 運命への恐れ

 アルファとオメガの運命の番。  そんなもの存在しない――伝説だとも言われる。  だが、身近にいるじゃないか。それも親子で、二組だ。  高久と、雪哉の絆も深いという。  雪哉もオメガとしては異例の存在だ。現に副院長を立派に務めている。  高久と雪哉。彰久と蒼。親子二代続けて、運命の番。  言うほど珍しくないのか、北畠家が特別なのだろうか……。  えっ! じゃあ、尚久は!  尚希は、唐突に気付いた。尚久もアルファで、北畠家の人間だと――。  当然、尚久も運命の相手と番うのだ。  その相手は、未だ現れていないけど、どこかにいる。確実に存在して、尚久の前に現れる。  自分はベータだ。アルファを誘うフェロモンなんて無い! それがベータなんだから。  この日以降尚希は、悶々と悩む。そして、尚久の運命の相手に怯えるのだった。 「尚希君こんにちは、大学はどうだい? ちょっと瘦せたんじゃない」 「えっ、そうかな……大学は、まあ、ぼちぼちです。あっ! 蒼先生来年度から院長先生なんですね、凄いです! おめでとうございます!」 「なお君に聞いたんだね。全く力不足だけど、頑張らないといけないね。身が引き締まる思いだよ」 「蒼先生なら大丈夫ですよ。彰久先生が副院長で支えるんでしょ」 「うん、そうだね。それは心強いかな」 「やっ、やっぱり運命の番だから……」 「うん……配偶者でもあるからね」 「あっ、あの……蒼先生たちって、最初に会った時から運命って分かったの?」 「それはなかったかな。二人とも子供だったから」 「で、でもずーっと彰久先生だけだったんだよね」 「うん、それはそうだね」  そうだ、子供の時から一筋の思い。それが運命の相手。 「えっ、えっと……院長先生たちも運命だったよね」 「うん? そうだけど……」  尚希は物思いに沈む。蒼は、そんな尚希に不信を抱いたが、その時は春久の登場で、話が途切れた。  その日の尚希の様子を、気になって時折垣間見る蒼。元気がないような、そんな感じを抱いた。 「なお君、ちょっといいかな」 「ええ、何ですか?」 「尚希君のことだけど」  最近、尚希の様子がおかしいことに尚久は気付いていた。変と言うより、避けられているような感じもある。 「何か、ありましたか?」 「うーん……おせっかいかなと思ったけど」 「あいつ、最近ちょっと変なんだよね。落ち込むと、ずこんと沈むから、気付いたことがあれば、教えてもらった方が助かります」 「あくまで僕が感じたことなんだけど、なお君の運命の相手を気にしているんじゃないのかな。僕たちも、母さんたちも運命だろ。それで、なお君にもそういう相手がいるって思ってるんじゃないのかな。彼はベータだから気にしているんじゃないのかな」 「そうか……あいつ余計なことを」 「まあ確かに、伝説だって言われる運命が親子二代って稀な事ではあるからね。彼が気にする気持ちも分かるんだ。だから、楽にしてやって欲しいと思ってね。それは、なお君にしか出来ないから」 「うん、早急に話すよ。あお君ありがとう」 「うん、尚希君は素直な良い子だからね。僕も彼のことは好きだから、彼が落ち込んでいるのは辛いからね。早く笑顔を取り戻して欲しいよ」  尚久には、蒼の言葉が嬉しかった。本当にこの人は優しい。病院だけでなく、ここ北畠家でも女神様だと思うのだった。

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