66 / 78

第66話 10章 愛する人の支え

「お帰りなさい! 三人一緒だったの?」  三人が玄関に入ると、春久が走り出てきた。 「うん、そうだよ。僕の買い物に付き合ってもらったんだ。これ、はっくんにお土産だよ」 「わーいっ! なーに?」 「エクレアだ。尚希がはる君へって、買ってくれたんだぞ」 「えっ! そうなの。なっくんありがとう! お母さまーっ、なっくんがエクレア買ってくれた」  春久がエクレアを持って蒼へ知らせに行く。 「尚希君ありがとう。こんな気を遣わなくていいのに」 「僕もはっくんと一緒に食べたかったので」  尚希の優しくて賢さからでた言葉。僕も一緒に食べたい、そう言えば、すんなり受け入れられる。 「じゃあ、食後のデザートに皆でいただこう。はる君、それまで冷蔵庫に入れておきなさい」  この日の北畠家の食後のデザートは盛り上がった。  尚希の母が亡くなって以来、どこか静かな雰囲気を纏っていた。それが、久しぶりに和やかなものとなったのだ。 「うわーっ、これ全部違う種類なんだね」 「丁度全部で八種類あったので、全集類買ってきました」 「目移りするけど、これはどうやって決めようか」  そう、それが問題だ。誰から選ぶのか――。 「じゃんけんしよう。それで勝った者から選ぶ。公平で文句無しだ」  雪哉の提案で、じゃんけん勝負になる。 「最初はぐーっ、じゃんけんぽん――じゃんけんぽん」  二回目で勝ち負けが分かれた。なんと、蒼と、彰久と春久の三人が勝ち組だ。 「さすが親子の絆の深さ」  彰久が自慢気に言うと、皆苦笑しながら頷く。確かにこの親子はこんな些細なことでも団結している。  結局じゃんけん大会は、彰久の優勝、次が春久で三位が蒼になった。そして、結惟、雪哉、尚久の順。最後のどべ争いは、高久と尚希。  僕がどべでいいよねと思いながらの勝負。皆が二人に注目。 「じゃんけんぽん!」 「うわーっ、父さんがどべ!」  高久が負けたのだ。 「私はじゃんけんが弱いな。今日初めて知ったよ」  高久の人生でどべになることなど皆無だった。例えじゃんけんといえど、少々ショックを感じる高久。 「じゃんけんなんてする機会ないからな。でも楽しかったな」  それには皆同意して頷く。たかがエクレアを選ぶ権利をかけて、皆真剣勝負。でもだから盛り上がって楽しかったのだ。

ともだちにシェアしよう!