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第68話 10章 愛する人の支え

 尚久が言った通り、尚希の採用決定を、皆喜んでくれた。  尚希の母の喪中ということもあり、お祝いという形は控えたものの、皆の「良かったね、尚希君」の言葉が、尚希にはとても嬉しかった。  後は、無事に卒業できることを考えねばと思う。卒業出来ねば、この採用決定も無駄になる。どころか、教授の顔を潰すことにもなり、それは絶対に許されない。  尚希は決意通り、大学最後の勉学に打ち込んだ。尚久が、今は他のことは考えなくていいと言ったことも、尚希の心を楽にして勉強だけに打ち込むことが出来た。  事実、考えないといけないこと、やらねばならないことは沢山ある。しかし、尚希の性格では同時に何もかもすることは出来ない。一つ一つ進めねばならない。そうなると、先ずは卒業を決めることだった。  尚希の努力は実った。無事に卒業が決まったのだ。  何よりほっとした尚希が、一番知らせたい相手、勿論尚久である。 「尚さん、卒業が決まったよ」 「そうか! 良かった! お前、頑張っていたから大丈夫だとは思っていたが、良かった。私もほっとした」  満面の笑みで喜ぶ尚久。あーっ、心配かけてたんだと、尚希は改めて思う。良かった、尚久にも安堵してもらって、本当に良かったと思う。 「お母さんの、ご両親の墓前にも報告しないとな。特にお母さんは、お前の卒業を楽しみにされていただろうから」  それは、尚希も同じ考え。会社の採用決定後、墓参りをしていない。卒業が決まったら、合わせてきちんと報告したいと、そのために、勉強に励んでいたのだ。 「うん、僕もそうしたいと思っている。尚さんも一緒に行ってくれる?」 「勿論だよ。私は他にも報告したいことがあるからな。お前と一緒に行くつもりでいた」 「他に? 何?」  尚希の疑問に、尚久は微笑むだけで答えてはくれなかった。しかし、悪いことではない、それはわかる。尚希は、尚久への信頼でそれ以上追求する気持ちはなかった。   「墓参りは、納骨以来か?」 「うん、そうだね。就職と、卒業両方知らせたくて見合わせてたんだ。その方が母さんも安心できると思ったから」  春浅い早朝、二人は花を手に、尚希の両親が眠る墓を訪れた。  花は、墓参りに行くことを知った蒼が用意してくれた。いかにも蒼らしい、白い清楚な花の束。蒼の優しが溢れている。  母が、どんな花が好きだったか自分は知らない。けれど、この花なら母も喜んでくれるだろうと、尚希は思うのだった。  思えば、母の好きな食べ物も満足に知らない。  今更ながらに、親不孝だったと、忸怩たる思いになる。

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