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第76話 最終章 幸せは風に乗って
結婚式当日。
二人は早朝尚希の両親の墓参りをして、結婚の報告をした。
『父さん、母さん、今日結婚式だよ。僕は今日から北畠尚希。でも、萩原の父さん、母さんのことは決して忘れない。どうか天国で見守っていてね。必ず幸せになるから』
『私が、萩原の姓を名乗ることも考えましたが、尚希を北畠家の籍に入れることにしました。必ず幸せにしますから、どうかお許しください。そして見守って頂ければ幸いです』
二人は墓前で手を合わせ、それぞれに幸せへの思いを誓うのだった。
「お墓参り無事済ませたんだね。お母様たちに報告出来て良かったね」
帰宅した二人を、蒼が笑顔で迎えた。
「はい、きちんと報告できました。お花、ありがとうございます」
今日の墓参りも、蒼が花を用意してくれていた。優しい気配りの人、尚希も見習いたいと心から思う。
「このメンバーでの朝食は最後かな。淋しくなるな」
「そうですね、朝食は最後になるかもですね。でも、昼や、夜は時折来ますから、そう淋しくもないですよ」
雪哉の言葉に尚久が応える。
「そうだな、時折顔を出しなさい」
尚希にはそう言ってもらえるのが嬉しい。尚久との二人での生活も楽しみだが、ここを離れることは淋しい。なんだか自分の実家のように馴染んでしまっている。
「なっくん、遊びに来てね」
「うん、ありがとう。そうだ、はっくんも僕のマンションへ遊びに来てね」
「いいの?」
「うん、来てくれたら嬉しいよ。ねっ」と、尚久に同意を求める。
「ああ、はるだけじゃなく、みんなで来てください」
「わあーいっ! 嬉しいなあ」
「落ち着いた頃に、皆で遊びにいくか。二人の暮らしぶりも見たいからな」
その時は精一杯おもてなししたいと、尚希は思う。これだけ良くしてもらったのだ。せめてほんの少しでもお返しができたら嬉しい。
朝食を済ませると尚希は、尚久と共に会場へ行くため、名残惜しい気持ちを胸に北畠家をあとにする。
「尚希君、入ってもいかな」と、蒼が遠慮がちに控室に声掛ける。尚希はドアを開けて迎え入れる。
「わあーっ、素敵だね! とても良く似合っている。さすがは結惟ちゃんの見立てだね」
一足先に来ている結惟も満足そうに微笑んでいる。そこへ、高久と雪哉の夫夫も入ってくる。二人共穏やかな笑顔だ。
尚希は今だ! と決心する。
「父さん、母さん……今日はよろしくお願いします。あっ……今日だけでなく、これからも末永くよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく。尚久のこと頼んだよ」
高久が労わるように背を撫でながら言う。傍らで雪哉も頷いている。尚希は胸がこみ上げるのを必死に抑える。良かった、ちゃんと言えた。そして、もう一人言わないと――。
「あ、蒼兄さん今までありがとうございました。これからもよろしくお願いします」
蒼兄さん、今日からそう呼ぶことに決めていた。今日から弟になるのだから――。
「尚希君ありがとう。僕の方こそ、これからもよろしくね」
蒼は兄さんと呼ばれたのが嬉しい。そして新鮮な響きを感じる。兄さんと呼ばれたのは初めてだから――なんか少しくすぐったい気持ちにもなる。
「それではそろそろ行くとするかな。尚久も待っているだろう」
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