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第77話 最終章 幸せは風に乗って

 式場――  皆が見守る中、尚希は高久のエスコートで尚久の許へと歩いていく。今日から夫になる人は、優しい笑顔で待っていてくれる。  高久が尚希を尚久へと渡し、二人の肩をぽんとたたく、尚久は頷き、尚希の手を取る。  二人の衣装は、同じ素材を使ったデザイン違い。結惟のアイデアだ。  尚希はふんわり可愛らしいく、尚久はきりっと凛々しさが出ている。全く別の印象を持つが、二人並ぶと同じ素材なだけに良く調和している。これは、後々皆が結惟のセンスの良さを称賛することになる。  誓いの言葉。  尚久が良く通る言葉ではっきりと述べる。その後、尚希が小さいく少し震える声で、それでも皆には聞こえる声ではっきりと述べる。  ここにいる人たちは皆、出会った頃の尚希を知っている。コミュ障気味で言葉少ない子だった。故に尚希の成長ぶりを感慨深げに思うのだった。  それを一番感じているのは尚久だった。ほんの少年だったのが、ここまで大人になった。待ったかいがあったと思うのだった。  皆が見守る中、誓いのキス。尚久は軽くすます。己の欲情を刺激しないため、彰久の時と同じ理由。なんだかんだよく似ている北畠兄弟なのだ。  堂々とした尚久と、初々しい尚希。二人を温かく見守る北畠家の家族。式は、厳かな中にも、和やかな雰囲気で滞りなく終わる。  高久のエスコートで来たバージンロードを、尚久の腕を掴み歩いて行く尚希。来た時は緊張でガチガチだったが、今は皆の顔も認識できる。皆とてもにこやかだ。尚希はとても誇らしく、そして嬉しい気持ちで溢れている。 『母さん、僕とても幸せだよ。ありがとう』 「鍵、お前が開けるか?」  尚希は頷いて、マンションの部屋の鍵を開ける。式と披露宴が終わり、二人で新居となるマンションへ来たのだ。結婚して初めての入居。  尚希が鍵を開けると、尚久は尚希をひょいと抱き上げる。 「えっ! ちょっ、ちょっと!」 「初めての入居だからな」ニヤリとして言う尚久。  玄関で一度下ろしたが、靴を脱ぐと再び抱き上げてベッドルームに入る。そして尚希を優しく下ろした。  そして両の手で尚希の頬を包むようにして、優しく微笑む。  尚希には突然のことで戸惑った。  まさか、尚久がいきなり自分をベッドへ運ぶとは思ってもいなかったから――。  尚希の戸惑いをよそに、尚久は尚希に口付ける。  尚久のキスはいつも尚希を優しく翻弄する。深いキスに尚希の頭はぼーっとして、その気持ち良さに酔って、戸惑いが消えていく。  尚久が尚希の上着に手をかけ、脱がせていく。  さすがにそこで尚希の戸惑いが戻ってくる。尚希は激しく焦った。 「あっ、だっ……だめ……」 「だめ、どうしてだ」 「だっ、だって……ぼ、僕……どうしたらいいのか……わかんない」 「ふっ……お前が初めてなのは分かってるよ。心配いらない、私に任せていればいい。お前は何もしなくていいからな」  微笑んで言う尚久はとても優しく、尚希の戸惑いは安堵に変わる。  しかし、怖い。尚久は優しい。そして信頼している。それは嘘ではない。けれど、未知の領域へ進むのは、とても怖い。  尚希の不安は、尚久にはよくわかる。だが、ここでやめるわけにはいかない。  尚久にとっては漸くここまできたのだから。我ながらよく待ったと思う。俗な表現だが、自分を褒めたいくらいの思い。 「大丈夫だ、心配いらない。お前を、尚希の全てが欲しい。私のものになってくれるか?」 「うん……ぼ、僕は尚さんのものになりたい」 「ああ、お前は私のもの。そして私はお前のものだ」  僕が尚さんのものになるだけでなく、尚さんも僕のもの――尚希は感動する思いになる。  尚希は尚久に抱きついた。それが、尚希の気持ち。  体ごと尚久のものになりたい。  結婚して夫夫になったのだから、当然だし、怖くない――多分だけど。

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