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01-2.
「お前が我が家の為に奔走しているのはわかっている。騎士団の仕事を休み、伯爵領の為に走り回ってくれたおかげで破産せずに済んだのは、変えようもない事実だ。私は誇りに思うよ。ブラッド。お前は私たちの自慢の息子だ」
息をつく間もなく、コーディは言い切った。
……嫌な予感する。
まるで別れを告げられるかのように感じた。
ブラッドは両親の性格を嫌になるほどに知っている。
伯爵領の平穏を維持することにしか目を向けてこなかった父親と、伯爵家の価値を高めることに執着をしてきた母親だ。どちらも伯爵家に強いこだわりを持っており、その為ならば子どもたちの生活を犠牲にしても何も感じない人だ。
「多額の賠償金を求められているのは知っているだろう」
「嫌になるほど聞かされましたよ。こちらは賠償金と慰謝料を貰うべき立場だというのに、相手が王族というだけでまるでキャロラインが浮気でもしたかのような扱いを受けているのも嫌になるほど知っています」
「その通りだ。よく理解をしているな」
コーディは傍にいる執事長に視線を向けた。
……それでブライアンが来たのか。
執事長、ブライアンはコーディの秘書も務めている。
指示をしてあったのだろう。ブライアンは鞄の中から封筒を取り出し、それをブラッドに差し出した。
「賠償金の支払いは終わった。伯爵家の悪評を終息させる手筈も整えた」
ブラッドが封筒を受け取り、中身を取り出したことを確認しながらコーディは淡々とした声で告げた。
「スターチス侯爵家に嫁に行ってもらう」
「……誰が?」
「書いてあるだろう」
封筒の中身はスターチス侯爵家と行ったやり取りを纏めたものだった。
それを見せればブラッドが納得をすると考えたのだろうか。一通り、目を通し、ブラッドは書類を封筒の中に仕舞い、ブライアンに渡す。
「俺の名前が書いてあったんですけど?」
すべては伯爵家の存続の為だったのだろう。
それを理解することができる。
だからこそ、ブラッドは口元を引きつらせた。
「当然だ。ブラッドを嫁に出すことで円満に解決させたのだからな」
二週間、仕事を休んでまで伯爵家の為に奔走をしていた結果、ブラッドは人身売買の被害者のように侯爵家に受け渡されることになっていた。
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