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 ……やりやがった。  ブラッドを多忙に追い込んだのは、母親、アビゲイルの提案だろう。  そうすることでスターチス侯爵家の動きを察知できないようにしていたのだ。 「ふざけんなよ! 誰がアルバートと結婚なんか――」 「スターチス侯爵家に向かう準備は済ませておきましたわ。ブライアン。この子を縛り上げてでも馬車に乗せなさい」 「はぁ!? おい! ブライアン!! なにしやがる!」  ブラッドは逃げ道を奪われていた。  動揺をしているブラッドの自由を奪うかのように縛り上げたブライアンに対し、抗議の声をあげるものの、聞き入れられることはない。 「誰か! 父上たちを止めろ!!」  ブラッドの声に対し、姿を見せる使用人はいない。  ……はめられた。  雇い主である伯爵夫妻に逆らえる者はいない。  伯爵の息子であり、伯爵家の為に奔走していたという事実をよく知っている使用人たちであったとしても、なにもすることができないのだ。 「伯爵家の為だ」  コーディはブラッドから顔を反らした。 「今後は侯爵夫人として逞しく生きるんだな」 「ふざけんなよ! 父上!! こんなこと許されると思ってるのかよ!!」 「貴族なんだ。受け入れろ。政略結婚の相手が同性だっただけだろう」  ブライアンの指示により、強引に大広間の外へと誘導される中、ブラッドは抵抗を諦めなかった。 「それが問題だって言ってんだよ!!」  抗議の声をあげながらも、魔力を練ろうとする。  現役の騎士を舐めるなと言いたげな力を籠めるものの、ブラッドが抵抗をするだろうと対策された特注の縄を千切ることはできない。  それどころか、魔法を放つこともできない。  抵抗をすればするほどに魔力が放出されていく。莫大な魔力を誇るブラッドが眩暈を引き起こすほどに強力すぎる拘束具だった。 「……あ?」  それに気づいたのが遅すぎた。  ブラッドの身体から力が抜けていく。倒れないように支えてくれた使用人の顔さえもぼんやりと見え、誰であるのか、把握さえもできない。  ……やばい。  ブラッドは意識を手放した。

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