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六話 同伴デート2

(すごい、緊張するぅ……)  心臓がバクバク鳴る。百貨店に入ると、清はカノと一緒にファッションブランドの店を見て回った。普段は入ったことがないような店だ。 「すごい、カッコいい……」  オシャレなジャケットを眺めて、チラリ値段を見て、金額にビックリして手を離す。思っていた金額よりゼロが一つ多い。 (ヤバ……。結構、高い店だ……)  内心冷や汗をかきつつ、カノに良いところも見せたい。不安定な心理状態になりながら、カノを見た。カノは落ち着いた顔でジャケットを手に取り、清の身体に押し当てる。 「うーん。ちっとイマイチだな?」 「カノくんが着た方がカッコいいよ……」 「そりゃそうだよ」  あ、肯定するのね。と思いながら、再び別のジャケットを当てられる。こちらのデザインも、正直似合わない。凡人顔なので、凝った服は似合わないのだ。 「よろしければ、お手伝いしましょうか?」   愛想の良い店員が、声をかけてくる。 「いや、オレが選びたいから」 「うぐぼっ」  カノ自ら選びたいという発言に、心臓が握りつぶされたみたいになる。胸を押さえて前屈みになる清に、カノは眉を寄せた。 「なに着ても七五三っつーか、くそダセえ感じになるのは、なんでなんだ?」 「カノくんが選んでくれるなら……何でも良いです……」  頭をクラクラさせながら言う清に、カノがムキになって服を合わせる。店じゅうの服をひっくり返す勢いのカノに、清は「もう大丈夫だって」と苦笑いした。 「あー……。なんだよ。オレのセンスで見立ててやろうとしたのによ」 「うっ、うんっ」 (か、可愛いな? こういう顔もするんだ)  拗ねたような表情に、胸がキュンとする。これが母性だろうかと清は頷いた。 「ん? これはなんだ? このブランド、こんなのあるのか?」  カノが眉を寄せながら、清の背後に並んでいたTシャツを手に取った。ブサイクな猫がプリントされたTシャツだ。 「そちらはコラボ商品でして、デザイナーのギンジサカザキのデザインなんです」 「ふーん?」  店員の説明を聞き流し、清の胸に当てる。 「良いじゃん。可愛い」 「かわっ……」  カノの言葉に、いちいち過剰反応してしまう。カノは清の肩をつかむと、鏡の方へ促してTシャツを当てて見せた。 「どう?」 「いっ、良いと思うっ!」  本当は良いのか悪いのか解っていなかったが、カノが勧めてくれたなら何でも良かった。 (このTシャツ、三万か……)  清はTシャツに一万円もかけたことがない。芸能人の真似をしてブランドTシャツに手を出したこともあったが、古着で購入した。 (けどっ、折角カノくんが勧めてくれたんだし……) 「オレも買おうかな。なんかアンタに似てるし」 「ぐぉっ……!」  咄嗟に呻いて、口許を覆う。何か込み上げて来そうだ。  清はなぜ、こんなにカノの言動で、一喜一憂するのか解らない。今まで『推し』なんて居なかったが、これが推しを持つと言うことなのだろう。 (すごい、血圧上がってる。心臓も、ヤバい)  スマートウォッチの健康管理機能が、警告音を出している。本当に異常だ。 「そ、それなら、カノくんの俺が買うよ」 「は? あー……。そういうつもりじゃ……」  カノの顔が曇った。ホストは女の子に貢がせると聞くし、実際にプレゼントも多いだろう。何かまずいことを言ったのかと、ヒヤリと胃が冷える。 「あ、その……」 「店で酒入れてくれてんのに、無理しなくて良いから」 「で、でもっ……。俺が、プレゼント…したいな……って……」  カノの様子に、だんだん語尾が小さくなる。しゅんと項垂れる清に、カノがハァと溜め息を吐いた。 「解った。じゃあ、オレのは清くんが買ってよ。清くんの、オレが買うから」 「えっ……」  パッと顔を上げると、困ったように笑うカノの顔があった。 「良いの? 嬉しい」 「はっ、スゲー、素直に言うじゃん」 「いや、だって嬉しいし」 「いいね、うらやましい。オレ、天の邪鬼だから」  そう言うと、カノはTシャツを手に、レジへと向かった。

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