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十六話 勘違いじゃなかったようです

「ここが、カノくんの家……っ」  マンションを見上げ、感動して震える清の背をカノが押す。促されるままに部屋に入る。部屋の中は、良い匂いがした。いつもカノが着けている香水の匂いだろうか。室内は物が多い。ほとんどは服だ。クローゼットに入りきらなかった服が、その辺に掛かっている。物は多いが、整理はされている。初めて入る部屋の雰囲気に、清は緊張してソワソワした。 「すごい香水の数……。これいつも着けてる奴――?」  棚の上に、大小様々な香水ボトルが置かれていた。どれがカノの香水なのか、問いかけようとした時だった。ぐい、と背後から抱きしめられ、頭を掴まれる。そのまま、カノが唇に噛みついた。 「っ、んっ!?」  既に何度目というキスをされ、動揺よりも「何で!?」という気持ちが強く、驚いて目を見開く。カノは舌先で清の唇をこじ開けると、ぬるりと舌を口の中に忍ばせて来た。 「あ――、ん、ふっ…」  鼻腔から息が漏れる。カノの舌が口の中を掻き回す。粘液を混ぜ合う感触に、ゾクゾクと身体が震えた。 (あ――ヤバい……)  カノの匂いのする部屋で、誰の目も気にならない場所でのキスに、身体が熱くなる。マズイと、カノの胸を押す。だが、キスは激しくなる一方だった。 「あ、んぅ……カノっ…、んっ」  捩じ込まれた舌に翻弄される。こんな激しいキスを、清はしたことがない。唾液が頬をつたい、顎まで落ちる。  呼吸が荒くなる。身体が燃えるように熱い。脳が、溶けそうだ。 「あ、はっ……、は――、ん……」  ちゅぱ、と音をたて、ようやく唇が離れた。離れたあとも、唇がじんわりと痺れている。 「あ――……♥」 「気持ち良くなっちゃった?」 「っ!」  指摘され、真っ赤になる。羞恥心からカノの傍から離れようとしたのに、カノがそれを許さなかった。 「わっ、は、離してっ」 「ダメ」 「っ、今、ちょっとヤバいからっ……」  キスのせいで、少し勃ってしまった。カノのせいではあるが、知られるのは尊厳が危うい。 「清」 「うっ……、カノくん、ダメ……、だってぇ……っ♥」  カノの唇が、耳朶を食む。なぞるように舐められ、ゾクゾクと背筋が粟立った。 「あ、っ……」  カクン、膝から力が抜ける。それをカノがヒョイと抱え、お姫様抱っこしてしまった。 「うひっ」 (え、俺、そんな軽くないのに)  清は細身だが、背は平均ほどはあるし、男だけあってそれなりに重い。それを軽々抱えあげるカノに、驚きと同時にときめいてしまう。 (あれ、でも、なんで)  何故抱えられたか解らず、カノを見る。カノが何か企んでいるような顔で清を見ていた。 「カ、カノくん……? その、家飲みするって」 「お風呂、入ろうか」 「へ」 「洗ってやるよ」  キラキラした笑顔でそう言われ、清は意味が解らず頭がぐるぐるしてしまった。 「へ、ちょ、カノくんっ!?」 「はいはい、暴れんな」  脚で器用にシャワーの扉を明け、室内に入る。清が戸惑っているうちに、あっという間に服を脱がされてしまった。 「あっ、ちょ、尊厳がっ」  清は半勃ちの性器を隠すように、前屈みになる。すると、目の前でカノがシャツを脱ぎ始めた。 (――っ)  カノの肉体に、ドキリと心臓が脈打つ。細身なのに、盛り上がった胸と、六つにはっきり別れた腹。肋の浮いた自分とは、まるで違う。 (身体までかっけえ……)  思わず見惚れていると、すっかり裸になったカノに腕を掴まれ、シャワーの前に押し出される。 「わっ、ちょちょ」 「シャワー出すぞ。最初冷たいから」 「ひっ! 冷たっ!」  シャワーの冷たさに、ビクッと震える。だんだんお湯になるシャワーにホッとする。と、背中に肌の感触を感じて、ビクンと肩が揺れた。 「あ――」  カノがソープを手にして、清の身体に触れる。背後から胸の辺りを泡で滑らせて、丁寧に洗われて行く。 「カノ…く、自分でっ……!」 「なに隠してんだよ」 「っ……、いや、そのっ……」 「小さくても笑わねえよ? 大抵はオレより小さいし」 「は――」  カノのその言葉に、チラリと振り返る。カノは堂々と、隠しもしていなかった。股間部分に目をやると、冗談みたいなサイズのモノが、ぶら下がっている。 「エグッ!? は!? エロ漫画かよ!? スプレー缶くらいない!?」  思わずじっと見てしまう清に、カノがケラケラと笑った。凶悪といっていいサイズだ。グロテスクでもある。だが、清も男の子なので、デカいというものには好奇心が湧きたった。平時でこれなら、勃起したらどうなることか。恐ろしくもある。 「デカいだろ?」 「デカすぎだって!」 「清のと、比べてみる?」 「ふえ」  ぐい、と腰を掴まれ、身体を正面に向けられる。向かい合わせになる身体に、カァと顔が熱くなった。 「ちょ、見んな……っ」 「オレのも見ただろ」 「っ」 (あ)  見られた。見られた。見られた。  カァ~~~。全身ぶわっと赤くなって、羞恥心がこみ上げる。勃っているのを、見られてしまった。  カノはそんなことは気にも留めず、下腹部を引き寄せ、互いの性器をピタリとくっつけ合う。 「ひ、んっ……♥」 「ホラ。……こうやって見ると、清の可愛いな」 「っ……、カノ、くんのが、デカすぎなんだって……っ」  互いの性器が、僅かに擦れる。敏感な部分が触れ合って、ビクビクと腰が揺れた。 「バカにしてるわけじゃねえよ? ほら、一緒に擦ったら……」 「あっ、あ、カノっ……、ん」  先走りが溢れ、ぐちぐちと音を立てる。カノは腰を揺らしながら、泡のついた手で清の胸を撫でた。ぬるりとしたソープが肌を滑る感触に、ぴくぴくと皮膚が跳ねる。爪の先が、乳首を引っ搔いた。 「あ――、あ、カノ、待っ……」  ヤバイ。何か、マズい気がする。そう思い、カノの胸を押し返す。ドクドクと、心臓が鳴る。ガンガンと、警鐘が鳴り響く。 「っ、カ、カノく……っ……、そのっ」 「あ? なんだよ」 「っ……、お、俺の自意識過剰かも、知れないけどっ……、なんか、変な空気に、なってるっ?」  ぐーっとカノの胸を押し返すが、力では勝てそうになかった。何だか、気のせいかも知れないが、貞操の危機のような気がしている。カノが自分に、そんな空気になるなど、あり得ないと思いつつ、状況だけ見ればそうとしか見えず。 「は? 何言ってんのお前」 「あっ、だよね! 俺の勘違い――」 「キスまでした男の部屋にあがっておいて、何言ってんの」 「――」 (あれーっ? やっぱり!?)  ビクッと、清は身体を震わせた。押し返す力を強めたが、一向に逃げられそうにない。その上、下半身をがっしりと抑え込まれてしまった。 「ちょ、ちょっと、ストップ!?」 「今更何言ってんだ。オレのこと、好きな癖に」  そう言って、カノが唇を塞ぐ。んむ、と息を切らし、清は首を振った。 「すすす、好きだけどっ! でも俺、女の子としかやったことない――」 「は。そんなこと。オレもそうだし、お互い様」 「っえ!?」  驚いて、声を上げる。こんなことをするくらいだし、男性経験もあるのだと思い込んでいた。 「な、なんでっ……!?」  理由が解らず、混乱する。カノが清の頭を掴んで、じっと見つめて来た。その瞳に、確かに欲望を感じて、ぞわりと背筋が粟立つ。 「清の泣いたり困ったりしてる顔、なんかスゲー、チンコがイラつくんだわ」 「ぇ」 「だから。抱く」  はっきりと宣言され、清は真っ赤になった。その上、何だかろくでもないことを言われた気がする。 「い、い、いや、だって……カノくんのチンコ、スプレー缶じゃんっ!!」

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