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十八話 またね

 朝日の下、脚を大きく開かれ、カノが孔を指で左右に押し拡げた。それを清は、真っ赤になって両手で隠そうとする。 「ちょっ! 何すんだよっ!」 「何って、清がガバガバになってないか、心配したんじゃん」 「だからって見んなよっ!」 「見なきゃ解らなくね?」 「見ても解らないだろっ」 「それはそう。でも」  そう言って、カノがアナルに指をつぷんと挿入する。 「ひんっ!」 「指くらい楽に入るし。感度も良いし。ああ、でも適度に|締まる《・・・》から、ガバガバじゃねえよ。良かったな清」 「よっ……、く、ないっ! 抜けって!」  ビクビクと身体を震わせ、清が半泣きになる。その様子に、カノがニマリと笑った。 「その顔されると、抜きたくなくなるんだけど。もう一回しておく?」 「や、やだっ! 身体痛いんだからっ」  泣きながら首を振る清に、カノは残念そうに指を引き抜く。清は軋む身体を起こして、ハァとため息を吐いた。  昨晩は、何回泣かされたか分からない。一度目が終わったと思ったら、すぐに二回目に突入し、バックでも突かれたし、足を抱えて貫かれたし、抱きしめるようにして挿入された。結局、最初は半分も入らなかったカノの肉棒が、三分の二まで入るようになってしまった。それでも、三分の二なのだが。 「何回シた……? 一、二、三……」 「んー、五六回? オレはまだイケるけど、清、仕事だもんな」 「巨根で絶倫は勘弁しろよ……」 「大丈夫。ついてきてたじゃん」 「死ぬかと思った……」  げっそりしている清を引き寄せ、カノが頬に口づける。 「っ……!」  カァと頬を赤くして、カノを見る。カノはニヤニヤ笑っていた。 (くっ……。顔が良いから、許しちゃうっ……) 「お、俺そろそろ行かないとっ……」  誤魔化すようにそう言ってベッドから抜け出す清に、カノが腕を掴んだ。 「っ……、な、なに?」  振り返れば、カノが真面目な顔をして清を見ている。 「次、いつ店来る?」  問いかけに、ドキリとした。当初の予定では、少し距離を置こうと思っていた。少なくとも、今週末は来ないつもりだった。それなのに、カノとこんなことになって、どうしたら良いか分からなくなる。  でも。 「――わ、かんない」  少なくとも、時間が必要だ。  清の返事に、カノの唇が結ばれる。それから、小さく「そっか」と呟いた。 「まあ、会社休んだんだもんな。清くんも忙しいか」 「ま、まあ……」 『清くん』と呼ばれたことに、違和感を抱く。昨晩は、ずっと『清』と呼んでいた。あちらが素で、今は『ホストのカノ』なことは、言われなくとも解る。 (――…。考えてみれば、俺ってカノくんのこと、何も知らないんだよな)  ホストなことは知っているけれど、本当の名前は知らない。誕生日もきっと、ホストとしての誕生日だろう。年齢は本当かも知れない。経歴は解らない。カノだって、清のことをろくに知らない。 (何だかなぁ……) 「あ、そろそろマジでヤバイ! 帰らないと!」  考え事を打ち消し、軋む身体に鞭打って服を着る。始発はもう動いている。清は普段着なので、会社に直行は出来ない。一度寮に帰らなければ。 「じゃあ、泊めてくれてありがと! 行くね!」 「待って」 「へ」  グイ、腕を引かれ、顔を寄せられた。唇が離れて行って、キスされたのだと解った。 「っ――」 「真っ赤。もっと凄いこともいっぱいしたのに」 「う、うるさいっ。仕方ないだろっ」 「行ってらっしゃい清くん。またね」 「――行ってきます」  見送られるのは、何だかすごく、気恥ずかしかった。  ◆   ◆   ◆  走り去っていく清の背中を見送る。乾かさずに寝たせいか、昨晩の行為のせいか、髪がぴょこんと跳ねていた。 「……|また《・・》ね」  呟いて、扉を閉める。欠伸をしながらテーブルの上に置き去りだったタバコを手に取り、火を点けた。  煙を吐き出し、ベッドに座る。乱れたシーツと、殆ど中身のないローションボトル。ゴミ箱に引っ掛かったコンドームを摘まんで捨て、カノはため息を吐き出した。 「……もっと、彼女気どりするかと思ったんだけど」  意外に普通だったな、と煙を吐き出す。あからさまに、自分に好意を抱いているのが見え見えで、それが面白くて。キスすると決まって、驚いた顔をして。泣きそうな顔が、妙にそそった。 (まあ、彼女ではないか) 「ボトル入れた時は、こうなるとは思わなかったんだけどな……」  とはいえ、小心者な性格も、怖がりなのも知っている。このままカノを怖がって、逃げる可能性も僅かにある。 「まあ、逃がさないけどね」  ポツリ呟いて、カノはタバコの火を消した。

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