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十九話 今は、まだ

(疲れた……)  明け方までセックスして、電車に一時間揺られ、そのまま仕事に直行。ようやく寮に帰ってきた清だったが、すっかり疲労困憊だった。  気だるい身体を動かして、シャツを脱いでロッカーに突っ込む。欠伸をしながら裸になる清に、横から佐藤が声をかけた。 「なんだお前、昨日はお楽しみかよ」 「あー……? ああー……」  生返事をしながら、清は佐藤の視線をたどる。身体中あちこちに、カノがつけたキスマークやら噛んだ痕が残っていた。 「すっげー、疲れた……」 「はは。遊んで疲れりゃ世話ないな」  そう言いながら腹の肉を揺らして、佐藤は浴室の方へ向かう。清もその後に続く。  夕暮れ寮にはシャワーもあるが、清はもっぱら、大浴場の方を利用していた。風呂は広い方が気持ちいいし、なにより湯船につからないと入った気になれない。大浴場には他にも、何人か寮生が利用していた。 (眠い……、怠い……)  ヘロヘロになりながら身体を洗い、浴槽に浸かる。フハァと息を吐き出し、ようやく人心地ついた。 (スゲー疲れたけど……)  湯船に顔までとっぷり浸かって、ぶくっと息を吐き出す。 (カノくんと、エッチしちゃった……)  今さらながら、その事実が込み上げ、ジワリと頬が熱くなる。ちょっと強引だったが、好きな人と肌を重ねるという行為の気持ち良さに、胸がドキドキした。カノが想像以上にデカくて怖かったが――。取り敢えず、身体の方も問題なさそうだ。ただ、まだ入っていた時の感覚が残っているような気がして、違和感があるのだが……。 (なんか、凄い良かったな……。風俗とか目じゃない感じ)  客観的に、カノはエッチが上手かった。清は任せっぱなしだったので、ひたすら快楽を貪っていただけだった。カノの手は巧みで、舌遣いも上手い。初めて後ろを使った清があれだけイかされたのだから、そっちも上手いのだろう。 (――やっぱ……。モテるだろうし……)  カノの経験の多さが、そうなるのだと思うと、少しモヤモヤしてしまう。たくさんの女の子が、清と同じように愛されて、乱されたのだろう。あの指も、唇も、たくましい身体も、清のものではない。 「……枕――って、ヤツ……か」  ボソッと呟いて、天井を見上げる。浴室は湯気で煙っていて、白くかすんでいる。寮生たちが呑気にお喋りしながら湯船でふざけていた。  カノとのセックスは、つまるところ『枕営業』というやつなのだろう。夜の店では、そういうことが儘あるという。どのようにしてそう持ち込むのか、清は知らなかったが、ホステスやホストから誘うこともあるとは噂で聞いたことがある。その時は、「んな夢みたいなことあるかよ~」と思っていたが、実際にあるのだからそうなのだろう。 (……シャンパンとか、入れた方が良いのかな……)  カノに何か言われたわけじゃないが、そういうことならシャンパンを入れるべきなのだろうか。毎週ホストクラブ通いをしている身としては、あまり高い酒をバンバン入れられるわけではないが、少しくらいは出せるだろう。何しろ寮暮らしで趣味もない。もう少しなら掛けられる。 『清の泣いたり困ったりしてる顔、なんかスゲー、チンコがイラつくんだわ』  カノの言葉を思い出し、ゾクと皮膚が粟立つ。  あの言葉の真意を、聴いたわけではない。あの瞬間、カノは確かに清に欲情していて、清を欲してくれていた。 (今は、まだ……良いか)  あの時の熱を、ビジネスだなんて思いたくない。自分が相手じゃあり得ないのは解っていたが、少しくらい夢を見ても良いだろう。そう思いながら、清は「うーん」と両手足を伸ばしたのだった。

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