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二十二 初めてのアフターは
ソワソワと、カノの到着を待つ。着替えて来ると言って消えたカノを待つこと五分ほど。店は閉店作業に入っており、様相を変えている。
「あれ、吉田さん、もしかしてアフターですか?」
「あ、北斗くん」
声を掛けてきたのは、カノのライバルらしい北斗だ。今日も王子様のようなルックスである。
「北斗くんはアフターじゃないの?」
「今日はナシです。カノがアフターとか、珍しいですよ」
「そっ、そうなんだ?」
その言葉に、ドキリとする。北斗によれば、カノはあまりアフターをしないらしい。しつこくせがむお客さんも多いらしいが、大抵はあしらっているそうだ。
(さ、さすがカノくんっ……)
「僕なんか、アフターやってしっかり営業して、やっとですからね。やっぱりカノは古参だけあって、違うんだろうな」
「北斗くんはライバルだって、言ってたよ」
「ホント? 嬉しいなあ。そう思ってくれたなら―――」
「おい、何やってんだ」
低い声に、驚いて顔を向けると、北斗のすぐ後ろにカノが立っていた。今日の私服も、素晴らしくかっこいい。
「カノくんっ♥」
「っと、もう来たの? 早いね」
「人の客にちょっかい出すなよ。北斗」
「待ちぼうけの相手してただけだろ? じゃあ、吉田さん」
「うん。お疲れ様ー」
そう言って、北斗が立ち去る。カノはムスっとしたままだ。
「カノくん?」
「……行くぞ」
「うんっ」
カノに手を取られ、清は深夜の街へとおどりでた。
◆ ◆ ◆
「ふぁ……。すっかり、暗いね」
明かりの少なくなった街は、賑やかだった数時間前の景色とはまるで違って見える。眠らない街が、徐々に眠りにつく時間。それが、ここからの時間だ。
「どこか行くの? カラオケ?」
ウキウキしながら聞く清に、カノが眉を上げる。
「どこか行きたいとこ、あったりする?」
「いやもう、どこでも嬉しいけど。カノくんの好きなとこで良いよ」
疲れているだろうし、カラオケを無理に誘うのも違うだろう。コーヒーを飲むだけだって良いのだ。
ニコニコ顔でそう言う清に、カノがニヤリと笑う。
「じゃ、ホテル」
「――は」
何を言われたのか、一瞬理解が追い付かず、固まってしまう。カノは相変わらず、ニヤニヤと笑っていた。
「どこかホテル、泊まる予定だった?」
「え? あ、うん。近くのカプセル空いてるかなって……」
終電に間に合わないのは解っていたので、今日はカプセルホテルに泊まろうと思っていた。
「予約してないんでしょ? まあ、オレの部屋でも良いけど」
「ん、ちょ、あのっ」
ジワリ、耳が熱くなる。誘われるとは思っても居なくて、動揺して言葉が出てこない。
(えっ、うえっ。カノくんと、エッチ――出来るって、こと?)
ドクン、ドクン。心臓が鳴る。顔が熱い。チラリ、カノを見上げる。
「で? ホテルで良いの?」
「っ、は、はいぃ……っ」
どの反応が正解なのか解らないまま、清は頷いてカノの手を握り返した。
◆ ◆ ◆
シャワーの音が室内に響く。その音を聴いているだけで、だんだん心拍数が上がっていく。
(イヤイヤ、落ち着け、落ち着け。なんかノコノコついてきちゃったけど……)
バスローブを握りしめ、キュッと唇を結ぶ。
(そういえばカノくん、スプレー缶じゃん!? この前、散々泣かされたじゃん!?)
前回|シタ《・・》ときは、杭で身体を貫かれたみたいだった。エッチ出来ると浮かれてしまったが、冷静になれば清の負担はかなり大きい。
「ヤバい……。どうしよ……。今日こそ死ぬかも……」
いっそ今からカラオケにならないだろうか。設備のマイクを握りしめ、カラオケの電源を入れる。カノが歌ってくれたら最高だ。
「何やってんの」
「っ!!」
耳元に話しかけられ、ビクッと肩を揺らす。振り返ると、バスローブをはだけさせ、髪から水滴を垂らすカノが立っていた。
「うぐっ」
(えっち過ぎるっ……!)
「なんでカラオケ立ち上げてんだよ」
「えっ、いや、そのっ……。も、盛り上げようと?」
「心配しなくても、ベッドの中で盛り上げてやるけど?」
「ひぅっ!」
耳たぶを齧られ、ゾクリと身体を震わせる。
「あ、ちょ、カノくん……っ」
カノの手が、バスローブの裾から入り込み、清の尻を揉み上げる。臀タブを揉まれ、ゾクゾクと快感が這い上がる。
「言った通り綺麗にした?」
「っ、し、した……」
「ん。次から準備してから来いよ」
「ん、ん? ん? つ、次っ? え?」
「次は次だろ。来るだろ? 店」
言いながら、カノの唇が頬や目蓋に触れていく。その感触がくすぐったくて、清はドキドキと心臓を鳴らした。
「え? あ? いや、その? どういう……?」
「良いから、お前は頷いときゃ良いの」
「わぷっ!」
ベッドに押し倒され、その上にカノが覆い被さる。ゾクリ、カノの瞳に、視線が吸い寄せられる。獰猛な、男の顔だ。
「カノ――く」
「くち、開けて」
「あ…」
ぬるり、舌が唇に入ってくる。舌を絡ませ、唇を吸われる。何度も角度を変えながら、キスを繰り返す。
「っ、ん……、あ…」
ぷは、と息を吐きだし、唇が離れた。名残惜しさに、熱の浮いた顔でカノを見上げる。
「は。ワインの味」
そう言って笑うカノの表情に、清は死んでも良いと目蓋を閉じた。
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