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二十七 買い物デート?
その翌週、清は予定どおり萬葉町へとやって来た。今日はカノと、約束の同伴デートである。買い物デートは久し振りなので、なんとなくワクワクしていた。
(楽しみだなー。カノくんに似合う服見ても良いし。あ、カノくんが使ってる香水欲しいんだよな。枕にかけて寝たいんだよね)
清は香水の類いは使っていない。なんなら柔軟剤も使っていない。寮に備え付けの業務用石鹸や洗剤の雑な香りである。とはいえ、香水の薫りが嫌いなわけではない。特に、カノの匂いは好きだ。最近はあの薫りに抱き締められているお蔭で、匂いを嗅ぐとドキドキしてしまう。
そんなカノの薫りを枕に振りかけたら、毎日添い寝してる気分になれるんじゃないか。というやつである。抱き枕にかけても良い。
そんな妄想を膨らませながらカノを待っていると、人混みの中から一際眩い人物がやって来る。見慣れた金髪に、清はむにゅと頬を緩めた。
「カノくんっ」
「おー。待った?」
「全然。ハァー、やっぱカッコよ」
溜め息を吐く清に、カノがニマリと笑う。カノは、清に褒められるのが好きなようだ。清もカノを褒めるのが好きなので丁度良い。
「で、どこか行きたいところあるの?」
促され、歩きながら行きたい場所を伝える。こうして並んで歩くとき、清とカノはくっつきそうなくらい距離が近い。誰が見ても、デートだと思う距離だ。
「香水みたいなーって。カノくんと同じの欲しい」
「ふーん。でもアレ、ここ辺に店ないよ」
「ええっ!? そ、そっかぁ……」
衝撃の事実に、ガッカリして項垂れる。売っている店がないとは、思ってもいなかった。
「じゃあ、今日はうち来なよ。買い置きあるから、それやるし」
「ええっ、良いの?」
「良いよ。清にプレゼントしたいしさ。まあ、他にもプレゼントしたいものがあるんだけど」
「えっ……。な、なに?」
カノからのプレゼントなんて、嬉しいに決まっている。なんだろうかと、ソワソワしてカノを見上げる。
「まあ、お楽しみってことで。さっそく買いに行こうか?」
「うんっ♥」
◆ ◆ ◆
「あの、カノくん……? ここ……」
「入り口に立ってると迷惑だから。入るぞ」
「あっ、ちょっと待って!」
カノを追いかけ、慌てて中へと入る。目に飛び込んできた光景に、清は顔をひきつらせた。
ここは萬葉町にある、バラエティショップである。外から中が覗けないようになっている構造と、怪しい文言の看板。看板にはデカデカと『大人のおもちゃ♥』『各種アダルトグッズあります』と書かれている。入り口付近には需要が多いのか、テンガやオナホなど薬局でも買えるようなライトな商品が。少し進むとペラペラのコスプレ衣装などが置かれている。パーティーグッズとしての需要もあるようだ。
(うはー、初めて入った)
初めて入ってみたが、思ったよりも普通だ。今まで興味はあったのだが、勇気がなくて入ったことがなかった。学生時代ならノリで入れたかも知れないが、幸か不幸か、清の地元には近くにそういう店がなかった。店内は、ドンキみたいな雰囲気がある。ごちゃごちゃしていて、なんだか面白い。エロいという感覚よりも、好奇心が先に立った。
「思ったより、普通ね?」
「そりゃ、こういうのは話題用だったりだろ。そもそも、セックスはコミュニケーションだし」
「あ、うん」
カノがセックスをコミュニケーションだと言いきるのが、少し意外だ。性欲を発散しているわけではなかったのか。
(あれ? じゃあ、なんで俺と?)
密かな疑問が浮かぶが、考えても解りそうにない。
棚に置かれている商品に、カノが手を伸ばす。この辺りの商品は、バイブ類だ。
「あ、あの、カノくん?」
「清さぁ、全然、平日一人で弄ってないだろ」
「えっ?」
カノの口調に、ビクッと肩を揺らす。
週末あれだけヤっておいて、平日ヤりたいかと聞かれれば、清はそうではない。まして、一人でする時にアナルを弄ることはないだろう。
「週末に拡張してもさぁ、翌週には戻っちゃうんだよ。全然、オレの入らないじゃん」
「い、いや、入ってるだろっ? それに、アレ以上入らないって! 奥届いてるもん!」
言いながら、奥を虐められる感触を思い出し、ぞくんとする。カノは執拗に、結腸口を突くので、嫌でも奥まで入っているのが解ってしまうのだ。
反論しながら、清はふと、ここに来た目的について想いを馳せる。大人のおもちゃ屋に来て、バイブのコーナーを眺める理由が、他にあるのか。
「――もしかして、ソレ、俺に使おうとしてる?」
「逆に、誰に使うと思ってんだよ」
「――イヤイヤイヤ! おおお、おかしい! おかしいよ!」
「店で騒ぐなよ。清」
「うぐぐぅ……。いや、カノくん、ちょっと……」
(その凶悪な棒(笑)を、俺の穴に入れようと? いや、カノくんの入ってる時点で、入るとは思うけども)
そういう問題じゃないのだ。清はゲイじゃない。アナルでセックスするのは、相手がカノだからだ。別にアナニーが好きなわけでもない。最近は気持ちいいのも知ってしまったが、好き好んで尻の穴をいじくり回したいわけではないのだ。
「コレあたり良さそう。大きさも」
「いいい、要らないよ? 俺、使わないよ?」
「アナルパールも付けるか」
「カノくんっ! 初プレゼントがソレは嫌だよ!」
しがみついて抗議するが、カノは無視してバイブを物色する。どうやら、購入は決定事項らしい。
「だからさぁ、清のケツ拡張しねぇと、オレのが入らねえって言ってんだろ。毎回、どんだけ苦労してると思ってんだよ」
「いや、それは、そう、だけど」
とはいえ、最初よりはスムーズに挿入できていると思う。最も、カノが大変と言うなら、申し訳ないのだが。
「それに、オレのプレゼントなら、使うよな?」
「えっ」
「もちろん、使うよな♥」
「は、はいぃ……」
笑顔の圧力に、清は反射的に頷く。結局、カノは清にバイブ二本とアナルパール一本を買って、プレゼントしてきたのだった。
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