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第23話 またね。
君彦と別れた後、しばらくは晴れが続いた。雨が降ると、俺は抜け殻になってしまう気がした。勝手なもので、あの時は雨が降るのを待ち望んでいたのに、今は雨なんて一生降るなと思っている。
でも、雨は降るんだ。
俺は雨の中、出掛けた。
そこにいないってわかってる。電話も出ないってわかってる。そうだとわかっていることをして、俺は君彦とのことを思い出として記憶しようとしているんだ。
雨のコンビニ、夜9時。俺は傘を差している。スマホを取り出した。一瞬迷ったが、お兄さんで登録した番号を押す。
(…お客様がお掛けになった番号は…)
ほらね。
俺はコンビニを後にした。
久しぶりにアクトの扉を開けた。
「あらぁ、レオ君、いらっ…しゃ…い」
ロビさんは久々の俺の顔を見ると、尻すぼみのいらっしゃいを言った。俺、そんなひどい顔してるかな…
ロビさんは、カウンター席に誘った。
「レオ君…失恋しましたって襷かけてるより、わかりやすい顔してるわよ」
「そうなんだよね」
ロビさんには、なんでも正直に言えてしまう。そして、わかっているのに、ロビさんに聞いてしまう。
「ねぇロビさん、桃が好きなカッコいい男の人の話しって聞いたことない?」
「桃?果物の桃のことよね」
ロビさんは目をパチクリした。
「そうねぇ…桃ねぇ…バナナだったら、食べさせたがる殿方は何人も知ってるけど」
何人も知ってるんだ。さすがロビさん。俺は君彦の名前以外の話しをロビさんに聞いてもらった。
出逢いから、別れまで。何回も交わったこと。少し変な性癖があったこと。でもすべてステキなことだったこと。まだ思い出にはできないこと。
「レオ君…その人のこと本当に好きなのね。レオ君の気持ち丸ごと持っていっちゃったのね」
話し終わると、ロビさんは俺に薄いオレンジ色をしたドリンクを出してくれた。ロビさんの顔を見ると
「アタシの奢りよ…ピーチフィズ」
ロビさんは、いつも優しい。
「…ありがとう」
ロングタンブラーに入ったピーチフィズはライトに照らされてキラキラと輝いていた。
飲むと甘酸っぱくて、美味しかった。
「ねぇえ…その桃のお兄さん、また来年、桃の初物が出る頃に、会いに来てくれるんじゃないかしら」
ロビさんは優しく微笑んだ。
「…そうだよね。ありがとう、ロビさん」
俺はそう言って、またピーチフィズを飲んだ。
またね。君彦、いや、お兄さん。
いつか、また、俺の桃…食べてよね。
The end
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