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第1話 二人の日常
ああ、また…。とため息。
笪也 は寝返りで反対側を向こうとしたら自分の枕のほぼ半分を幸祐 が占領していた。
情事の後はそれぞれの枕で寝るのだが、いつの間にか擦り寄ってきた幸祐に枕をジャックされるのだった。
その夜も笪也は幸祐の首の下に手を入れるとそっと頭を持ち上げ自分の枕に戻してやった。
幸祐の寝顔は可愛かった。その寝顔を見ると枕を取られても、笪也はため息一つで許してしまうのだった。
成宮笪也 と砂田幸祐 は同じ会社に勤める先輩と後輩の間柄だ。一緒に暮らして、もうすぐ二年になる。
笪也はゲイだ。幸祐と暮らす前まではパートナーはいつも年上だった。年上が好みだった。今では年下の幸祐と深い仲になっているが、一緒に住むようになったのは不憫な後輩に同情をしたことと、一人暮らしの淋しさからだった。
「笪 ちゃん。俺行くからね。遅れないように起きてよ」
簡易な台所から幸祐の声がした。
「朝ご飯ちゃんと食べてよ。ゴミ出しとくからね」
笪也は、半分寝ぼけた頭で、そうだった、と思い出した。今日幸祐は、笪也と暮らす前まで一緒に住んでいた祖母の家へ、出勤前に様子を見に行く日だった。
「…うん?…あぁ…サンキュー」
「じゃあ、行ってきます」
「おおい、いってきますのキスは?」
「ごめん、帰ったらするからね」
幸祐は明るく元気な声でそう言うと、階段を降りていった。しばらくすると玄関のドアが閉まる音がした。
それじゃ、ただいまのキスになるだろ、と一人でブツブツ言いながら笪也はスマホを見た。いつもの起きる時間よりはだいぶ早い。もう少し寝ようか迷ったが、ゆっくりと布団を抜け出し、幸祐が用意した朝食を横目に台所の流し台で顔を洗った。
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