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第2話 笪也と幸祐(1)
二年前。
笪也 と幸祐 が勤務する会社ディ・ジャパンは大手の飲料メーカーだ。
飲料のジャンルも多岐に渡り新商品が次々と出ては、消えてゆく。レギュラー商品になるのは、ほんの一握りだ。大手とはいえ熾烈な営業合戦が絶えない状況だった。
笪也は営業部の、その中でも企画開発という、新商品の考案と商品化に向けての開発、異なるスキルが必要な部署に所属していた。今は主にお茶の企画を手掛けていた。
幸祐は総務部の労務課で安全衛生管理を担当していた。
ある日、笪也は営業先からの帰社後に休憩しようと社屋の休憩スペースにある自販機でコーヒーを買おうとしていた。
福利厚生の一環で自販機の飲み物はワンコインで購入ができるため、多くの社員はコンビニよりも社内の自販機を利用していた。
笪也の前に自販機に並んでいたのが幸祐だった。幸祐は購入した缶を受け取り口から取り出すと、後ろにいた笪也に、お先です、と声をかけた。笪也も何の気もなく、あぁ、と言って硬貨を投入し、最近発売されたコーヒーのボタン押そうとしたら『売り切れ』と赤い文字が点灯していた。
「…ったく。売り切れかよ」
笪也は他のどのコーヒーにしようか迷っていると声をかけられた。
「あの…よかったら、これどうぞ」
幸祐は笪也の、売り切れかよ、の声を聞いて、自分が購入したのが最後だったんだとすぐに気付いた。幸祐が自販機の前にいた時は、売り切れはなかったのだ。
少しお節介かなという気持ちもありながら笪也が買い損ねたコーヒーを差し出した。
「えっ?…別に他のを買うからいいよ。ありがとう」
笪也は軽くいなすと、他のコーヒーのボタンを押そうとした。
「あっ…でも、僕あまりコーヒーが好きじゃないんで。成宮さん、どうぞ」
笪也は手を止めて、幸祐の顔を見た。名前は知らないが、総務部のフロアーにいることはわかった。
フロアーの階も違うし、この本社ビルには何百人と社員がいるのに、咄嗟に笪也の名前が言えることに驚き、コーヒーが好きでもないのに買っていることに、変わったヤツだなと思いながら、差し出されたコーヒーを受け取った。
「じゃあ、君は何を飲む?俺がそれを買うよ」
「オレンジジュースを…お願いします」
幸祐は少し恥ずかしそうな顔でそう言うと、笪也はオレンジジュースを買って幸祐に渡した。
「ありがとうございます」
幸祐は嬉しそうに受け取った。
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