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第2話 笪也と幸祐(2)

 笪也は休憩スペースにある椅子に座り缶コーヒーのタブに指をかけながら、幸祐に隣の空いてる席を勧めた。 「コーヒーが好きでもないのに、何で買おうとしたの?…君は…えっと…」 「総務部の砂田です」 「砂田君か」 「はい。実は労務課長に言われて…新商品が出たら一度は飲みなさいって」 「まぁ、タレント使ってCMやってるくらいだからな。飲むに越したことはないけどさ」  幸祐は笪也の話しを聞きながら、美味しそうにオレンジジュースを飲んだ。 「でも、やっぱり僕はこれが好きです」  そのオレンジジュースは以前笪也が担当していた物だった。  オレンジの他にも幾種類かのフルーツで商品展開していたが、結局採算が取れるのはオレンジだけだった。他社との差別化を図るために、引き続きオレンジ以外のジュースにも力を入れて作るべきだという意見を、笪也は押し除け、今よりも更にオレンジの品質にこだわって作り、ボトルデザインも一新し、オレンジそれ一本で打ち出したところ、商策は見事に的中し一時期は店頭で品薄にまでなるくらいの人気商品になった。 「僕はオレンジジュースが好きで、色んなのを飲みましたが、これが断然一番美味しいです。本当にこれを作ってくれた人に毎日感謝ですよ。オレンジを食べてるみたいに美味しさが口いっぱいに広がって、まさに果汁100%の搾りたての味なんですよね。成宮さんも今度飲んでみてください。本当に美味しいですから」  目の前の笪也が手掛けたとも知らずにベタ褒めする幸祐の言葉を、笪也はくすぐったく感じながら聞いていた。 「砂田君がそれを好きでいてくれたから、俺もこのコーヒーにありつけたわけだ」  幸祐は、笪也にはにかんだ笑顔を向けた。 「しかし、砂田君はすぐに俺の名前を言えるんだ」 「そうですね…本社で勤務されてる方はほぼ全員お名前はわかりますよ。労務管理の仕事をしてますから」 「はぁ…凄いね」  感心する笪也に幸祐は頭を掻きながら 「仕事ですから…あっ、そのコーヒーもう少し数を増やしてもらうように、庶務課に伝えてみますね。仕事のモチベーションが下がりますって」  と言って笑いながら立ち上がった。  笪也と話している間も売り切れの赤ランプの文字にがっかりしている社員が何人もいた。  幸祐は、では失礼します、と笪也に一礼して自分のフロアーに戻って行った。  笪也はオレンジジュースでの手腕を買われて、お茶の担当に抜擢されたが、お茶戦国時代といわれる昨今で、他社より抜きん出るのは至難の業だった。笪也は今から明日の会議の資料の最終確認をしなければならなかった。  ううん、と大きく伸びをして、営業部のフロアーに戻った。

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