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第2話 学校

朝5時30分 携帯のアラームから起床の合図が鳴り響く。 ベットから起き上がり着替えと洗顔を済ませ、両親の朝食と自分の弁当(昨日の夕飯の残りを詰め込んだだけのもの)を手早く作る。 いつもより若干体が重く感じたが、気のせいだと思いそのまま玄関のドアを開けた。 自宅から徒歩10分、偏差値は60前半。 なるべく金がかからないようにと選んだ公立高校だが、俺にとっては唯一の居場所だ。 「おはよ、凪。」 俺の斜め前の席に座っているのは佐川 湊(さがわ みなと) 入学時から席が近いことから仲良くなった友人の一人で、お人好しな性格故に学級委員を努めており人望も厚い。 「凪、悪い。数学の課題写させてくんない?」 後ろから声をかけるのは東 翔也(あずま しょうや) スポーツ推薦でこの学校に入ったバスケ部のルーキーで、前回の中間テストの際勉強を見て欲しいと頼まれたことをきっかけに親しくなり今は3人でいることが多くなった。 「またかよ。数学は2限だからそれまでには返せよ。」 鞄からノートを取り出し翔也に渡す。 「マジありがと。てかお前、手どうした?」 昨日の火傷の痕をいぶかしげに見られる。 保冷剤で冷やしたものの腫れはまだくっきりと残っていた。 「…料理してたら油が跳ねた。大したことじゃないから気にすんな。」 湊が何か言いたそうにしていたが、ちょうどチャイムがなりホームルームが始まったので話はうやむやのまま終わった。 1限から古典、数学、日本史と授業を受ける。 当てられても特に問題なく答えられたし、いつも通りだと思っていた。 しかし、朝からなんとなく感じていた体の不調は午後になるにつれ悪化の一途を辿った。 4限の体育で少々無理をしたのが原因だろうか。 頭痛と倦怠感で昼食もほどんど残してしまった。 「凪、大丈夫?随分具合悪そうだけど」 「先生呼んで来るから待ってろ」 6限が終わって皆が部活や帰宅のために次々と教室から出て行く。 帰りのホームルームは気づいた頃には終わっていたらしい。 翔也が担任の広尾先生を連れて来た。 物理担当の28歳、気さくな性格で男女問わず人気のある教師だ。 先生の手が前髪をかき分け額に当たる。 「…熱はないけど、顔色が良くない。それにあちこち怪我してるな。」 「…俺、大丈夫ですから」 前髪で隠していた痣を見られたが、先生は特にそれ以上追求することはしなかった。 「僕達が送っていきます。一人で帰すのは心配なので。」 「分かった。送り届けたら佐川か東、どちらか俺に連絡してくれ。」 「…すみません。迷惑かけて。」 ただでさえ教師は忙しいのに余計なことに時間を割かせてしまった。湊や翔也だって暇な訳じゃないのに。 「頑張り屋なのは千歳の良いところだけど、無理は禁物だ。今日は帰ったらしっかり休め。」 少々強い口調だが、先生の表情は優しかった。 「…その、ごめん。」 帰り道、二人は気を使ってゆっくり歩いてくれるし、「重いだろ。貸せよ。」と鞄まで持って貰って申し訳ない気持ちになる。 「謝らなくていいよ。これは僕達がしたくてやってることだから。」 「何なら今ここでおんぶして家まで運んでやりたいくらいだけど?」 おどけた調子で言うが翔也ならやりかねない。 「それは、遠慮しとく。」 流石にこの歳でおんぶされるのは気が引ける。 その後も普段と変わらない雑談をしている間に自宅のマンションまで着いてしまった。 「…送ってくれて、ありがと。」 まだ礼を言っていなかったことに気づいてそう言うと、二人はあからさまに嬉しそうに笑顔を向けた。 「何かあったら連絡してね。」 「またな。」 名残り惜しいが、悟られないよう俺はすぐにエレベーターに乗り込みその場を後にした。

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