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第30話 本音
「…自分のため」
「そう。龍一はどうしたい?」
律は昔から理想を語る人間だ。
どれだけ可能性が低かろうが、0じゃないなら大丈夫だと高を括る。
馬鹿みたいな理論に振り回されたことだってあった。
けど、それが時に眩しく羨ましい。
「ゆっくり考えてみろ。迷ったら、もう一度だけ助けてやる。」
意味深な言葉を残したまま、淡い夢は終わりを迎える。
昨日は珍しく残業がなく家に帰れた。
薄くなったクマが睡眠不足の多少の解消を証明している。
天気は雨模様だとマイナスな印象を持たせるようにテレビで報道されているが、俺は別に嫌ではない。
夢の景色はあまりにも穏やかだったから、真逆の雨粒の音と黒い雲はかえって落ち着く。
「さっき印刷した分な。」
「ありがとうございます。」
プリンターから出てきた大きさが揃った紙を手渡す。
一ページあたり六つのポケットが付いたリフィル。
透明なアルバムはすぐに鮮やかな写真によって彩がもたらされていった。
この間、凪の友達と四人で撮ったやつもちゃんとある。
「やっぱ、自撮りって慣れないな。」
自分が写ることにまだ抵抗が拭いきれないのか、硬い表情に不満を零している。
(これは上手くいったけどな)
俺はスマホを取り出しカメラアプリの画面を見せる。
SDカードから転送させてもらったツーショット、一番綺麗に撮れている写真だ。
「その写真なら、引き出しの中に」
アルバムに入っていないのはそういう訳だったのか。
「…手元に置いておきたかったから。」
(今度、写真立てでも買ってきてやるか)
本当に健気というか、凪の思い出に俺がいると考えると愛おしくてたまらない。
「凪、聞いてもいいか?」
「何ですか?」
「もし、俺が世間からずれてたとしても信じてくれるか?」
酷なことをことを聞いてしまったか。
普通の高校生なら、はっきりとした解答は出ないだろう。
「俺は先生を嫌ったりしない。…信じるって決めたから。」
俺が望んでいたものが、まるで愚問だと言わんばかりに返ってくる。
凪は想像よりもずっと強かった。
(律が気づかせたかったのは、多分)
自分の本音が今なら分かる気がする。
本当に俺が恐れていたのは凪との関係が崩れ去ってしまうこと。
足りなかったのは覚悟。
たとえ世間を敵に回したとしても、守り支えるだけの覚悟が。
「今のは忘れてください。」
「何でだよ。嬉しかった。」
「…恥ずかしいから。」
いつものように照れて俯く凪の髪をそっと撫でる。
さらりとした黒髪の感触と温もりは心の不安をかき消してくれた。
「あんま見るなよ。変な顔してるし、第一男の照れなんて面白くないぞ。」
「それをからかってるのは、どこの誰ですか。」
拗ねた目をしても逆効果だと自覚してほしい。
「凪は特別だから。」
きっと、どんな解答だとしても凪は受け入れてくれるのだろうか。
後悔するなら全部やり切ってからでも遅くはない。
(当たって砕けろ、か。お前もよく言ってたな)
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