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第41話 隠し事
繋がった手の温度と高鳴る鼓動。
穏やかに流れる時間とは対照的に速度を増した脈。
寝そべった芝生と周りの景色は夢の中とよく似ていた。
「最後になんかさせねえ。」
『最後』を嫌う先生、律さんの頼みにあった『大事な話』と何か関係があるのだろうか。
本人に確認することも出来ず、心に引っかかったままだ。
(…後、一か月)
主治医の診断によると、怪我はほぼ完治していて経過観察を続けると同時に、体力を回復させるリハビリを並行していくとのこと。
身の回りの動作が自分で出来るようになった達成感を憶えた。退院が近づくのは喜ぶべきはずなのに、どこかでそれを寂しく思う自分がいる。
カレンダーの日付は別れが来ることの証明だった。
「これであってる?」
隣から声をかける葵が持っているのは、ティッシュのような薄い紙から作られた花飾り。
まず紙を5~6枚重ねてから蛇腹に折り、輪ゴムやホチキスで中央を止める。
立体になるように広げていけば、学校行事などでよく見かける飾りの完成だ。
「ああ。完成したらそこの籠に入れてくれ。」
壁に貼り付けるだけの分はそれほど多くない。
余った紙とラッピングに使えそうな物をいくつか貰う。
(…これが、きっかけになれば)
神崎先生に日頃の感謝を伝えたい。
直接口に出せないなら何か物を介せばいいのではないかと思い立ち、プレゼントを作ることに決めた。
偶には俺が神崎先生を驚かせたいという感情も少なからずあるのは否定しないが。
両端をハサミで切ったり、二つの色を組み合わせたりして花を作り、厚紙やリボンを用いてブーケに包む。
早々に飾りを作り終え、訝しげに様子を見ていた葵が「なるほどね」と口角を上げた。
「龍一先生にあげるんでしょ?」
ここで大人げなくムキになってはいけない。
余計にからかわれるのが目に見えるからだ。
「…本人には言うなよ。」
「分かってるって。」
釘を刺すように忠告をすると、葵はニヤリと笑った。
じわじわと頬に集まる熱を誤魔化すように脇腹を肘で小突く。
作業はまだ途中だが、迎えが来るまでには片づけを済ませたい。
道具箱に糊やテープを仕舞い、袋に入れた花束は人目に付かない棚に隠した。
「凪、帰るぞ。」
手続きや面会もあってか、こんな風に二人で帰るのも久しぶりな気がする。
神崎先生の傍へよる足どりは不思議といつもより軽い。
葵は視線を俺に向けると、眉端を垂らし唇を静かに動かした。
「頑張ってね。」と紡がれた言葉は音にならずとも届く。
「話の途中だったか?」
「大丈夫です。また、明日すればいいので。」
二人で過ごす時間が、お互いにとってかけがえのないものであって欲しい。
神崎先生が『最後』を嫌うのなら、俺も今以上の関係を望んでしまいたかった。
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