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第7話 エピローグ
そしてもう一度、三十年前 東京。
夏。
ホテルの一室。
「ねぇ、もっと激しく……」
一ノ瀬は例によって枕営業の昼下がり。
夕方にはこの女客と同伴出勤の予定だ。
請われるままに腰を振りながら、一ノ瀬は今週の予定を振り返る。
──早いなあ。もう七月か……大学をやめてからあっという間だったなあ。
そこではたと思い当たる。
──ん? 待てよ七月?
司法試験を受けるための予備試験──その短答式試験は七月にあった。
「あ」
一ノ瀬は声を上げて動きを止める。
「え? ナニィ? いいところぉ……」
喘いでいた女客が、不満の声を上げた。
「ごめんちょっと一言メール送らせて」
抱いていた女客を放り出し、一ノ瀬は枕元の携帯を掴んだ。ポチポチと打ち込んで、携帯電話をすぐに元に戻す。
「お待たせお待たせ」
「え? そんな短くて良いの?」
「ん? うん。他になんて言えば良いかわかんないし」
一ノ瀬は女客の髪を撫でてキスをしながら、再びホテルのベッドへと押し倒した。
◉
昼食のおにぎりひとつを平らげて。
黒崎は暑さを逃れるために転がり込んだ大学図書館で、ラストスパートと言うよりは、もはや気休めのようになった参考書だの問題集だのを解いて、試験までの残り少ない時間を潰していた。
すると、マナーモードにしていた携帯が小さく震える。
着信は、一ノ瀬だ。
『がんばれ』
メッセージは一言、それだけだった。
黒崎は苦笑する。
それは。
うるさい蝉が鳴き始める、夏の日のことだった。
【了】
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