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第1話 上京

     古良井朔太郎(こよいさくたろう)が実家を飛び出して上京したのはひとつき程前の事だった。  ネカフェを泊まり歩けたのも最初のうちだけで、ここ数日は公園のベンチがベッドという有様だ。 ──おなかすいたなあ。  財布の中の残金は300円。  使ってしまえばそれで終いだ。  ベンチで目を覚ました古良井は身体を起こすと、腰かけなおし、うつろな目で公園を眺める。 ──もう三日は食べてない。帰るお金もない。  視界がかすんでくる。  七月も終わりかけ。朝から暑い。  北国出身の古良井にとって、それは結構なストレスだ。  ただ今日は、台風が近いのか、風がある。  古良井は風の中に鼻面を突っ込んで涼をとっていると、突然、視界を一枚の紙切れにさえぎられた。 「え?!」 『日給 四万円』  確かに、その紙切れにはそう書いてあった。  古良井は慌てて一枚の紙を追いかけて掴む。  面接地はここから一駅だ。  お財布の中身で充分間に合う。  けれど、使ってしまったらばもう後はない。  古良井はしばらく紙面を眺めた後、意を決してその紙切れをパーカーのポケットに突っ込み…………歩き出した。    ◉ 「え? 男の子? うーん、たまにいるけれど。うん。分かった。構わないから通しなさい」  一所一(いっしょはじめ)(48歳)は、風俗店を都内で六店舗経営する──いわゆるヤクザ者だった。その他にはおしぼりや観葉植物のレンタル……と言う名でみかじめ料を取って、エリアを守っている泡沫の暴力団組織──で本人いわく、社長、をやっていた。  その日もデリヘル嬢の応募にきた娘達を面接していたのだが、一人、青年が混ざってきたと、内線での報告だった。  一所の店では、客層に合わせて幅広い“嬢”を揃えている。それこそ、老若男女、だ。  買うのは様々な人種で男とばかりとは限らない。ゲイもいればレズもいる、フケ専もいれば、若さギリギリの18歳からだってご用意済みだ。  二度、短いノック。  一所は顔を上げた。 「どうぞ」  入ってきたのは──二十歳そこそこの、儚げ、と言う言葉が似合う青年だ。 ──ああ。この子ね。  見るからに薄汚れている。家出していることはすぐに見て取れた。  金がいるのだろう。 「名前は?」  たっぷり2秒おいて、答えが合った。 「……いるんですか?」 「そりゃいるだろう。雇うんだから」 「古良井……です」 「下は?」 「朔太郎……」  一所は左手で古良井を差し招く。  部屋の中は、大きめのソファが一つ。  今、一所が座っているデスクが一つ。  以上だ。  そばまで来た古良井の顎を、失礼、と言って一所は掴むと、くいと持ち上げてその顔をしげしげと眺めた。  薄汚れてはいるが、上玉だ。  額に傷があったが、そう言うのが好みの客もいる。 「まあいいかな。じゃあ脱いで」 「……え?」 「脱がなきゃわかんないじゃない。うちデリヘルの店だよ? 働きたいんじゃないのかい?」 ──故郷に帰れ。  一所はそう思いながら、ソファを指さした。 ──どうせ家出もろくな理由じゃないんだろう。こんなとこへ来て。 「上も下も、脱いでそこのソファに上がる。出来なければ――帰るんだね」 「……出来ます」  古良井は、パーカーを脱ぎ捨てると、Tシャツも脱ぎ、ジーンズを下ろした。  ためらいもせずボクサーを脱ぎ捨てる。  風呂にしばらくは入れていないのだろう、少し、体臭がした。  古良井はソファに腰掛け靴を脱ぐと両足を上げ、ソックスを履いたままの足を開き、M字にしてまっすぐに一所を見る。 「……どうですか?」  古良井の体臭は、饐えた匂いだったが、不思議なことに甘い。乳臭いというべきか……  ずくり、と一所の奥が疼いた。 「脚、もっと開いたら腰を前に出して。触るよ?」  言って、一所はソファの隣へ腰掛ける。  古良井の性器に手を伸ばし、すんなりと形の良い桃色のそれを持ち上げ──アナルを丸出しにした。 「……あの」 「なに」 「そこ……」 「使ったことあるの? おしり」 「……ない……です」 「だよねえ」  一所は持ち上げた性器を擦り上げている。  陰茎に絡められた指は太くはないが長い。  それがいやらしく動いて、古良井の陰茎はすこし、膨らみを増した。 「んっ……♥」 「反応は良いね……こっちはどうかな……」  始め、追い返そうとしていたのも忘れ、一所は古良井の身体を検分し始める。  ふにふにと、アナルの膨らみを指で揉まれた。  と思うやいなや── 一所はしゃぶった自分の中指をつるりと襞の中央へと滑り込ませる。 「……え? そこ…… 」 「ここ? 使うよ? お仕事はここでして貰うからね。君はこっちの感度が止さそうだから……」 「や……抜いてくださ……力はいらな……」  くん、と中で一所の指が曲がり、指の腹がくにくにと内壁の一点をいじめ始める。  そこはちょうど前立腺だ。 「ぁ♥……あ?……や……なん……なんですかこれ……はぁ♥ や……無理ぃ……♥」  古良井は身体を折り曲げると、一所の肩に縋り付いた。 「力を抜くんだ。古良井くん。そうしないと……」 「あ……♥ ぁ……あ……♥」  みるみる深いローズ色になった古良井の陰茎が持ち上がっていく。  一所が見かねて動きを止めると、古良井は小さく溜息を漏らした。  色っぽい事に一所の指をくわえたまま、アナルのすぼまりは収縮を繰り返している。 ──いいね。匂いも反応も顔も身体も、いいね。うん。実にいい。  ぎゅうと縋り付いたまま、はあはあと息をして小刻みに震える古良井に、気の変わった一所が声を掛けた。 「こういうお仕事なんだけど、君、向いてるね。やってみないか?」  返事がない。  中途半端に与えられた快楽に、頭が混乱しているのだろう。 「ああ、悪かったね。まず気持ちよくなろうか。話はそれからしよう」  言って、一所は、べろりと乳首を舐め上げる。 「ぁあッ♥」  空気ごと啜り上げれば、いとも容易く、古良井の乳首はほつりと立ち上がった。  舌でそれを可愛がりながら、一所の左手中指は再び、古良井のアナルを犯しはじめる。  静かに前立腺を攻められ、乳首をしゃぶられ、うなじを撫で上げられ、古良井は思わずつま先に力が入った。 「~~~~~~~~~~~~♥♥♥♥」  きゅんきゅんと古良井のアナルに指を締め上げられる──と思うやいなや、古良井は一所にしがみついたまま吐精する。  ぴゅるぴゅると吐き出されたそれを一所は引き抜いた左手の指に絡め取ると、ぬるぬるになった今度は二本の指で、古良井のアナルへと埋め込んだ。 「ぁ……ぁぁぁぁあ??♥♥」 「まずはドライイキを覚えようね」  くぷくぷと粟立つ精液にまみれた指が、古良井のアナルを広げていく。  ぬるぬると中を擦られ、古良井の腰が浮いた。 「な……や……ッ♥ もう俺イったじゃないですか……はな……はなして下さ……」  じたじたと身を捩る古良井を、一所は軽くいなして首筋にキスを落とす。 「ぁ……やぁ……♥」 「良い子だから、怖くないよ」  ちゅうと耳の後ろを吸われ、古良井は身を仰け反らせた。 「は……ぁあッ♥ やめ……もぅ……♥や……♥」  一所はビクビクと痙攣を繰り返す身体を、容赦なく愛撫する。  古良井の吐き出した精のいやらしい匂いが室内に充満していた。 ――まずいね、これは。  一所は腕の中であつい熱の塊になっている古良井から目をそらしながら、天井を仰いだ。 ――目でもあったら犯してしまいそうだよ。ホントにね……。  その時。 「おじさ……ん……も……やめ……きもちよくなっちゃう……」 「おじさん?」  思わず一所は古良井を見る。  目が、合ってしまった。  真っ黒な瞳が涙でにじみ、上気した顔で自分を見ていた。  ぐらり。  理性が、かしいだ。 「ハジメだ……僕の名前ならね」  一所はそう言うと、つい、うっかりと深く唇を重ね合わせてしまう。  指でこじ開けて、中にすくむ古良井の舌を吸い上げる。  淫らな水音を立てて、2人は舌を絡めあった。 「ん……んぅ……ちゅ……♥ ちゅ……♥」 「ごめんね、多分きついと思うけど、必ず気持ちよくしてあげるから」  一所はフロントのジッパーを下ろすと、自分の陰茎を取り出し……既に興奮で垂れる先走りをゆびでぬり広げる。  それから古良井の身体を後ろから抱きかかえると、まだ二本の指しか差し入れられたことのないアナルへと、熱い肉の塊を押し当てた。  何をされるのかに気づいた古良井の目が見開かれる。 「やッ……やだ……や……ッ」 「うん、ごめん」  ぬぷぷぷ……ッ♥ 「ぁッ………………♥」  幾度も一所の腰が押し当てられ、ぬぷぬぷと出し入れが続く。  ずりずりと中のいいところを一所の陰茎に擦り上げられ、古良井の眦から涙がこぼれ落ちた。 「やだぁ……やだ……だめ……やだやだぁ」  宥めるように、一所は古良井の首筋を舐め上げ……けれど、どちゅどちゅと振る腰のペースはまったく落ちない。 「ぁッ……あッ♥ やッ……♥だめぇ……ッ♥ ハジ……メさ……やめ……んッ♥ やだやだ……」 「やだじゃないって、下のお口は言ってるね?」  古良井の掠れる声を一所は唇で塞ぐと、そのまま腰を使い続けた。 「んん~~♥ んぅ……んんんッ♥♥」  伝う涎もそのままに深くくちづけると、一所はぎゅうと古良井を抱きすくめ、そのまま……中でびゅるびゅるとイッてしまう。 ──中……熱い…………ッ♥ 俺、中で出されちゃってる……んっ♥♥♥  きゅんきゅんと絞り上げるように、古良井の内壁が一所の陰茎を締めつけた。 「くッ……」  一所は思わず顔をしかめる。敏感になったそこが再び熱を持ち始めた。 「古良井く……」  顔を見るも、もはや朦朧としていて、返事がない。  うわ言でやだやだと小さな声で繰り返すばかりだ。 中は、吐き出した自分の精液のおかげでヌルヌルと非常に居心地が良い。 「ごめんね。もう一回いくよ」  ごちゅん♥ 「ふぁ?!♥」  ぬちゅぬちゅと吐き出した精をアナルから滴らせながら、一所は古良井の腰に打ち付ける。  無意識に引けていく古良井の腰を掴んで引き戻した。 「こら」  一所はカプリと、古良井の項に歯を立てる。 「~~~~ッ♥♥♥」  ついた歯形を舐め回しながら、一所が腰を掴む指に力が入った。 「奥、もうちょっと入れるよ。大丈夫、気持ちいいから」 「ゃ……♥ぁ……♥」 「いくよ」  前立腺ばかりをせめて突いていた、一所のモノの角度が変わる。  ぐるりと前から抱え上げられるように身体を支えられ、古良井の奥は、ずぶりと一所に──つらぬかれた。 「ぁッ……!?♥」  対面座位となった古良井は一所の首に腕を絡ませ、必死に縋り付く。  耳元にふうふうと一所の荒い息が響いた。 「だめ……ッそこホントにだめです……ッそこ入っちゃいけないとこぉ……ッ?!♥♥ ぁッ……あっ…あぁッ♥ ゃだやだぁ♥」  古良井は両腕で一所を押しのけようと抵抗する。 「気持ちいいんだね? 奥が吸いついてきて僕のモノにキスしているよ古良井くん。はッ……ぁ……僕もスゴク気持ちが良い……少しペースを落とそうか」  小刻みに腰を振っていった一所は、そこでぐいと深く突くと、ゆっくりと引き抜いた。 ぬろろ……っ♥ 「んッ……やめて……はじめさ……ッ♥」 「可愛い声だね。古良井くんはゆっくり喋るのに、えっちな声は止まらないんだね」  古良井は思わず両手で口を覆う。赤く染まった頬のみならず、耳まで染めあがっている。 「んッ……♥ んん……っ♥ んっ」 「君は本当に可愛い」  突かれるたびに声を抑え鼻を鳴らす古良井のつむじに一所はキスを落とす。 「でもそろそろ僕も……イキたいな。またイッていいかな、中で」 「ぁ……ゃ……♥」 「僕のえっちな白い精液、全部、古良井くんの中に注いであげるから、君……」  一所はそう言って、古良井の両肩に手を掛け、ひと息に引き下ろした。  古良井はぎゅうと抱きすくめられ、深く腰を押しつけられる。 「僕の物になりなさい。ね?」  とたん、一所はびゅうびゅうと、先ほどの比ではない量の精液を奥へと吐き出した。 「ぁあああああっ♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥」 ――ボクノモノニナリナサイ。ネ。  古良井はそこで、意識を失った。

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