2 / 5

第2話 愛人

    「……ん……古良井くん」  意識が浮上すると、しまったな、と言う顔の一所に古良井は顔を覗き込まれていた。 「ごめんね。やりすぎてしまって」  頬をぺちぺちと軽くはたかれ正気に返ったようだ。ソファから慌てて身を起こす。  掛けられていた大ぶりのバスタオルがずり落ちて、自分が靴下姿であることに気がついた。  タオルをかき寄せて古良井は一所を見る。 「あ……」 「君ね、帰るところはあるの?」  古良井はふるふるとかぶりを振った。 「そうなの」  一所は呟くと、何かもの言いたげに古良井をみつめた。  間が長い。  古良井はそれをまっすぐ見つめ返したまま時間が流れた。 「うん。やっぱり言おう。あのね、君。うちに来ないか」 「……いいんですか?」  古良井にしてみれば渡りに船だ。 「ああそれとね。面接は不合格だから」 「え……」 「君は今日から、デリヘル嬢じゃなくて僕の愛人になるといい」 [chapter:ヨルノアト アサノテマエ 第二話] 「社長、どちらへ」 「ちょっと出てくるから。後は頼んだよ」  一所は手荷物をまとめると、古良井を連れて事務所を出る。  地下の駐車場で車に乗り込むと、自宅のマンションへと車を走らせた。 「君いくつ?」 「……20です」 「ふうん」  信号待ちにダッシュボード上のクラッチバックからグローを取り出すと、一所はひとくち吸いつけた。 「お手当は、君がいる物を何でも買ってあげよう。君用のキャッシュカードを作るから、好きに使うといいね」  ウィンドウを下げ、一所はふうと煙を吐き出す。  夏の空気が、車内に流れ込んだ。 「君、何か希望はある?」 「……まだ……思いつきません」 「ゆっくり考えると良い」  カチカチとウィンカーの音。  一所は片手でハンドルを切ると、そこのマンションだ、と言って顎でフロントガラスに見える建物を指ししめした。 ◉  一所の家は角部屋にある3LDKだった。 「入って。まずは風呂だな。バスルームはこっちだ」  古良井は大人しくついて行く。 「着替えは出すから、服は脱いで洗濯機に入れると良い」 「……はい。ありがとうございます」  パーカーを脱いで、服の中から顔を出すと、隣で一所も服を脱いでいた。 「……え?」 「ん?」  驚く古良井に構わず、一所はシャツのボタンを外し終わり、ベルトを引き抜いた。 「……貴方も入るんですか?」 「うん。僕も汗をかいたし、それに……君の中に出したろう? 中、洗ってあげよう」  古良井は赤い顔になって、下を向いてしまう。 「……い、いいです」 「だめ。いいわけないだろう、ほら、全部脱いで」  古良井は、先ほどとは打って変わってのろのろと服を落とす。  今度はソックスもきちんと脱いだ。  洗濯機に落とし入れるのを見届けると、一所は古良井の背を押してバスルームへと入る。  一所は中へ入ると湯を張りながらシャワーのコックを捻って、立ったままの古良井を頭から洗い始めた。  シャンプーを手に取って、ワシャワシャと泡立てる。  古良井の毛は意外と直毛で張りがあった。  手の中ではじかれる髪の弾力を楽しんで、一所はうなじから頭頂部へと洗い上げる。 「気持ちいい……」  思わず漏らした古良井に、一所が笑った。 「そうかい? 良かった。うちはソープもあるからね。泡姫はこうやって頭も洗ってくれるんだ。うちの子達はなかなか上手いよ」  指が髪をすいて行くのが心地よい。  先ほどの長い一所の指先を思い出して、古良井は気恥ずかしさに、またうつむいた。 「流すよ」  ザアザアとシャワーで流されると、今度はなんだか良い匂いのする石けんで、腕からもこもこに洗い上げられる。胸に腹、背中……やはり気持ちが良い。  久しぶりの風呂というのもあるが、人に身体を洗われるのがこんなに気持ちが良い物だったとは、と、古良井は驚いた。  一所は屈んでお尻と足、足の指まで広げて洗ってくれる。  最後に手を流して、フェイスソープで顔を洗われた。  顔中撫で回されて、古良井はなんだか猫になった気分になる。  全部洗い終えた一所は、シャワーで古良井の身体を流しきると、自分も軽くシャワーを浴びた。  一所が流し終えると、手持ち無沙汰に自分を見上げる古良井と目が合う。 「ん……待たせたね」  その顔に手を添えると、一所は古良井に唇を重ねる。 ──そうだ。俺は愛人なんだった。  古良井は、指を突っ込まれて口を開かされる前に、今度は自ら唇を開いた。  ぬるりと入ってきた一所の舌は体温が低いのだろう。生温く、それが、古良井の歯列を舐めた。  すぐに舌先は、古良井の舌を探り当て、絡め取り、吸い上げられる。 「ん……ッん……」  いくども角度を変えて貪られ、古良井は鼻から息を漏らした。 「ん……ふぅ……♥」  うなじを撫で回されながら口づけられ、しびれるような甘さが背中を抜ける。  古良井は思わず一所の胸を押しやって、身を離した。 「……はぁ……これ、いるんですか?」 「リラックスした方が良いからね。古良井くん」 「そう……ですか」  一所は後ろから身を屈めて古良井を抱きすくめると、右腕で古良井の肩を抱き、左手の指で古良井のアナルをなぞりあげる。 「んぁ……ッ」  二本の指は、さんざん一所に突き上げられた古良井の中にやすやすと滑り込み、くぱりと指を広げられた。 「んッ……」 「少しだけお腹に力を入れてごらん」  たらたらと白濁したものが、奥から垂れ落ちてくる。 「よく出来たね。ご褒美だ」  一所は広げていた指を閉じると、二本そろえて、ぬぷぬぷとアナルを出し入れし、古良井の良いところをトントンと刺激した。 「あ……ぁ♥」  思わずひくつく腰に、一所は肩を放すと、後ろから手を回して古良井の陰茎に指を絡ませる。 「やめ……もう出ません……無理……」 「そんなことないだろう」  ちゅこちゅこと陰茎を絞り上げられ、耳の後ろを舐め上げられる……と、思ったとたん、耳の中に一所のぬるい舌が入ってきた。 「ひッ♥ や……ぁ……やだやめて……ッ♥」  きゅう、と、アナルが一所の指を締め上げる。  窄まったそこに、一所がなお指を押し込めた。 「ぁ……あ……やぁ♥」  キチギチに指を締め上げ、古良井はびくびくと身を震わせる。 「ふふ、気持ちいいね?」  一所は言って、うなじにキス。それからべろりとそこを舐め上げた。  古良井の背中が引きつれる。 「ぁ……ッ♥」  とたん、一所の手の中の陰茎がはじけた。  とぷとぷと精液を吐き出して、古良井は、一所にもたれ掛かかる。 「やだって言いました……」 「うん。ごめんね」  一所は口先だけで謝って古良井にシャワーを浴びせかけた。  すっかり湯船にたまったお湯へ、一所は何か入浴剤を入れて古良井を横たえる。 「じゃあ、僕は仕事に戻るからね。着替えは出して置いておくから。夜は帰るので一緒に食事をしよう。部屋は二つ空いてるから、どちらか好きな方を使うといい」 「……わかりました」  古良井は、慌ただしくバスルームを出て行く一所を見送った。  めまぐるしい一日だった。  と言っても。 ──今日、えっちしかしてない。  とぷりと湯に顔を埋める。 ──これから、どうなっちゃうんだろう。

ともだちにシェアしよう!