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第2話 愛人
「……ん……古良井くん」
意識が浮上すると、しまったな、と言う顔の一所に古良井は顔を覗き込まれていた。
「ごめんね。やりすぎてしまって」
頬をぺちぺちと軽くはたかれ正気に返ったようだ。ソファから慌てて身を起こす。
掛けられていた大ぶりのバスタオルがずり落ちて、自分が靴下姿であることに気がついた。
タオルをかき寄せて古良井は一所を見る。
「あ……」
「君ね、帰るところはあるの?」
古良井はふるふるとかぶりを振った。
「そうなの」
一所は呟くと、何かもの言いたげに古良井をみつめた。
間が長い。
古良井はそれをまっすぐ見つめ返したまま時間が流れた。
「うん。やっぱり言おう。あのね、君。うちに来ないか」
「……いいんですか?」
古良井にしてみれば渡りに船だ。
「ああそれとね。面接は不合格だから」
「え……」
「君は今日から、デリヘル嬢じゃなくて僕の愛人になるといい」
[chapter:ヨルノアト アサノテマエ 第二話]
「社長、どちらへ」
「ちょっと出てくるから。後は頼んだよ」
一所は手荷物をまとめると、古良井を連れて事務所を出る。
地下の駐車場で車に乗り込むと、自宅のマンションへと車を走らせた。
「君いくつ?」
「……20です」
「ふうん」
信号待ちにダッシュボード上のクラッチバックからグローを取り出すと、一所はひとくち吸いつけた。
「お手当は、君がいる物を何でも買ってあげよう。君用のキャッシュカードを作るから、好きに使うといいね」
ウィンドウを下げ、一所はふうと煙を吐き出す。
夏の空気が、車内に流れ込んだ。
「君、何か希望はある?」
「……まだ……思いつきません」
「ゆっくり考えると良い」
カチカチとウィンカーの音。
一所は片手でハンドルを切ると、そこのマンションだ、と言って顎でフロントガラスに見える建物を指ししめした。
◉
一所の家は角部屋にある3LDKだった。
「入って。まずは風呂だな。バスルームはこっちだ」
古良井は大人しくついて行く。
「着替えは出すから、服は脱いで洗濯機に入れると良い」
「……はい。ありがとうございます」
パーカーを脱いで、服の中から顔を出すと、隣で一所も服を脱いでいた。
「……え?」
「ん?」
驚く古良井に構わず、一所はシャツのボタンを外し終わり、ベルトを引き抜いた。
「……貴方も入るんですか?」
「うん。僕も汗をかいたし、それに……君の中に出したろう? 中、洗ってあげよう」
古良井は赤い顔になって、下を向いてしまう。
「……い、いいです」
「だめ。いいわけないだろう、ほら、全部脱いで」
古良井は、先ほどとは打って変わってのろのろと服を落とす。
今度はソックスもきちんと脱いだ。
洗濯機に落とし入れるのを見届けると、一所は古良井の背を押してバスルームへと入る。
一所は中へ入ると湯を張りながらシャワーのコックを捻って、立ったままの古良井を頭から洗い始めた。
シャンプーを手に取って、ワシャワシャと泡立てる。
古良井の毛は意外と直毛で張りがあった。
手の中ではじかれる髪の弾力を楽しんで、一所はうなじから頭頂部へと洗い上げる。
「気持ちいい……」
思わず漏らした古良井に、一所が笑った。
「そうかい? 良かった。うちはソープもあるからね。泡姫はこうやって頭も洗ってくれるんだ。うちの子達はなかなか上手いよ」
指が髪をすいて行くのが心地よい。
先ほどの長い一所の指先を思い出して、古良井は気恥ずかしさに、またうつむいた。
「流すよ」
ザアザアとシャワーで流されると、今度はなんだか良い匂いのする石けんで、腕からもこもこに洗い上げられる。胸に腹、背中……やはり気持ちが良い。
久しぶりの風呂というのもあるが、人に身体を洗われるのがこんなに気持ちが良い物だったとは、と、古良井は驚いた。
一所は屈んでお尻と足、足の指まで広げて洗ってくれる。
最後に手を流して、フェイスソープで顔を洗われた。
顔中撫で回されて、古良井はなんだか猫になった気分になる。
全部洗い終えた一所は、シャワーで古良井の身体を流しきると、自分も軽くシャワーを浴びた。
一所が流し終えると、手持ち無沙汰に自分を見上げる古良井と目が合う。
「ん……待たせたね」
その顔に手を添えると、一所は古良井に唇を重ねる。
──そうだ。俺は愛人なんだった。
古良井は、指を突っ込まれて口を開かされる前に、今度は自ら唇を開いた。
ぬるりと入ってきた一所の舌は体温が低いのだろう。生温く、それが、古良井の歯列を舐めた。
すぐに舌先は、古良井の舌を探り当て、絡め取り、吸い上げられる。
「ん……ッん……」
いくども角度を変えて貪られ、古良井は鼻から息を漏らした。
「ん……ふぅ……♥」
うなじを撫で回されながら口づけられ、しびれるような甘さが背中を抜ける。
古良井は思わず一所の胸を押しやって、身を離した。
「……はぁ……これ、いるんですか?」
「リラックスした方が良いからね。古良井くん」
「そう……ですか」
一所は後ろから身を屈めて古良井を抱きすくめると、右腕で古良井の肩を抱き、左手の指で古良井のアナルをなぞりあげる。
「んぁ……ッ」
二本の指は、さんざん一所に突き上げられた古良井の中にやすやすと滑り込み、くぱりと指を広げられた。
「んッ……」
「少しだけお腹に力を入れてごらん」
たらたらと白濁したものが、奥から垂れ落ちてくる。
「よく出来たね。ご褒美だ」
一所は広げていた指を閉じると、二本そろえて、ぬぷぬぷとアナルを出し入れし、古良井の良いところをトントンと刺激した。
「あ……ぁ♥」
思わずひくつく腰に、一所は肩を放すと、後ろから手を回して古良井の陰茎に指を絡ませる。
「やめ……もう出ません……無理……」
「そんなことないだろう」
ちゅこちゅこと陰茎を絞り上げられ、耳の後ろを舐め上げられる……と、思ったとたん、耳の中に一所のぬるい舌が入ってきた。
「ひッ♥ や……ぁ……やだやめて……ッ♥」
きゅう、と、アナルが一所の指を締め上げる。
窄まったそこに、一所がなお指を押し込めた。
「ぁ……あ……やぁ♥」
キチギチに指を締め上げ、古良井はびくびくと身を震わせる。
「ふふ、気持ちいいね?」
一所は言って、うなじにキス。それからべろりとそこを舐め上げた。
古良井の背中が引きつれる。
「ぁ……ッ♥」
とたん、一所の手の中の陰茎がはじけた。
とぷとぷと精液を吐き出して、古良井は、一所にもたれ掛かかる。
「やだって言いました……」
「うん。ごめんね」
一所は口先だけで謝って古良井にシャワーを浴びせかけた。
すっかり湯船にたまったお湯へ、一所は何か入浴剤を入れて古良井を横たえる。
「じゃあ、僕は仕事に戻るからね。着替えは出して置いておくから。夜は帰るので一緒に食事をしよう。部屋は二つ空いてるから、どちらか好きな方を使うといい」
「……わかりました」
古良井は、慌ただしくバスルームを出て行く一所を見送った。
めまぐるしい一日だった。
と言っても。
──今日、えっちしかしてない。
とぷりと湯に顔を埋める。
──これから、どうなっちゃうんだろう。
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