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第3話 部屋
一所がいつもより少し早めに一日の業務を終え、帰宅したのは8時手前のことだった。
マンションについて、車をパーキングに入れると、エレベータで上がる。
自宅の鍵を開けて入り――が、人の気配がない。
居間を覗いても古良井の姿はないが、玄関に彼のスニーカーはあった。
一所は一つ目の空き部屋を覗く。
そこはゲストルームでベッドが置いてあるばかりだ。
古良井の姿はなかった。
もう一つの部屋は、ソファと本棚が並ぶ部屋だが、そこにもやはり古良井の姿はない。
一所は少し考えてから、最後のドアを開けた。
「ここは僕の部屋なんだけどね」
自分のベッドで丸くなって眠る古良井の姿を見つけて、一所は、苦笑した。
◉
「ただいま、古良井くん」
一所は、すーすーと寝息を立てる古良井の耳元で声を掛けた。
パチリと黒い瞳が開く。
「この部屋が良いのかい?」
たずねれば、古良井はこくりと頷いた。
「分かった。少し荷物を片すか……さて、お腹が空いたね? 何か食べたいものはあるかな。食べれないものがあるなら教えて欲しいな」
「……なすびは嫌です」
「そうか。好きな物は?」
「……果物」
「うん。じゃあ、黒西瓜があるから、デザートにはそれを食べようか。夕飯は、そうだな……僕の好きな物で悪いんだけど、鰻の白焼きと蜆の味噌汁で……お酒は?」
「……飲めません」
「よし、ご飯を炊こうか。僕は晩酌するので夜は白飯を食べないから用意が無くてね。早炊きするから少し味が落ちるかも知れないけれど……」
「……いらないです。ごはん」
「え?」
「同じの……飲んでみたいです。お酒」
「うーん。大丈夫かな。日本酒のつもりだったけど……それじゃあスパークリングワインの軽いのにしようかな。5%くらいの物ならいけるかなあ……」
一所は、独りごちながら、ベッドに腰掛ける。
ふと、自分を見ている視線に気がつき、一所は古良井を振り返った。
「ああ、そうだ。お帰りなさいのキスを貰おうか」
言って、顎を掬い上げ、軽く唇を重ねる。
――なんでこうなったのかな。
古良井は柔らかい唇を押し当てられながら、ふと我に返った。
――俺の身体が気に入ったんだろうか……だとしたら、ハジメさんが、えっちでよかった。
ちゅくちゅくと軽いリップ音を立てる一所のくちづけは、少しだけいやらしい色をまとって――そのふれあう舌先に古良井は溶ける。
ちゅ……っ……ちゅく……♥
「ん……ッは……ぁ♥」
くるるる。
キスが熱を帯びた辺りで、古良井のお腹が可愛い音を立てた。
「……ごはんにしようか、古良井くん」
「……はい」
◉
デパ地下で買った鰻は暖め直すだけだったし、味噌汁は蜆を入れるだけだし、ワインはコルクを抜くだけだったので、夕食の支度はすぐに終わった。
デザートの黒西瓜もカットして冷やしてあるので、冷蔵庫から出せば良いだけだ。
居間のテーブルに皿を置くと、二人は並んでソファに腰掛ける。
一所はテレビが好きではないので、そこに備え付けられている物の、画面は暗いまま、向かいに座るふたりの姿をぼんやりと映し出していた。
「ん?」
テレビを見つめる古良井に気がつき、一所はリモコンを渡す。
「見たいドラマでもあるなら、つけると良い」
「いいんですか?」
古良井は喜んで海外ドラマにチャンネルを合わせた。
ネカフェに泊まれていた間は追えていたけれども、2週開いてしまった。しかし、幸いなことにのろのろと進むドラマの展開は、古良井を充分追いつかせることが出来た。
「これどんなお話なの?」
鰻をぱくつきながら訊ねる一所に、古良井は楽しげにあらすじを話す。
「ふうん。そうなの」
たわいもない話をして……一所が、気がついた時には遅かった。
話に夢中になって、飲みやすいスパークリングワインをついつい口へ運んだ古良井が、トイレに行くと立ち上がった瞬間、潰れたのだ。
「古良井くん?!」
ふらりとソファに倒れ込んだ古良井を抱き起こす。
「ふふ。はじめさあん」
古良井の声は陽気なままだ。
一所は胸を撫で下ろした。
「俺、ホントに、ここにいていいんですかぁ?」
「ん、いいよ」
「俺、居場所がどこにもなくて、探しに来たんです。東京なら見つかるかなって……」
「そうか」
「ひとつきかかったけど、見つかってよかったです。ふふ。ここ、俺の場所……」
一所の首に両腕を回して、古良井はその胸板に頭を擦り付ける。
「古良井くん」
「俺、朔太郎っていうんですよお。教えたじゃないですかぁ」
「今夜は饒舌だね。朔太郎くん」
「うん? そうですかぁ?」
「困ったな。朔太郎くん、可愛いね。昼間もしたけれど……僕、さっきの続きがしたいな」
「え……」
「うん、したいな。すまないね、朔太郎くん」
一所は残りのワインをあおって、返事を待たずに古良井を抱き上げる。
「僕のベッド、気に入ってくれて嬉しいよ」
軽々と運んで、古良井を寝室のベッドへと押し臥した。
◉
「あっ❤︎ あっ……あっあっ……❤︎」
容赦なかった。
一所は酔って少し鈍い古良井をするりと脱がせると、サイドボードからローションを出して、乳首と陰茎をヌルヌルに弄り倒す。
くりくりと乳首を捻り潰され、指の先でぴんと弾かれた。
「やっ……あ……っ❤︎」
同時に陰茎をちゅこちゅこと扱かれ、耳の中にまた、舌が入ってくる。
「それ、ダメです……やぁ……あ、はじめさぁん❤︎」
舌ったらずに呼ばれる名前がたまらない。
一所はローションを絡めた指で、古良井のアナルをぬぷぬぷとほぐしにかかる。
昼間2度ほど押し入ったのもあってか、一所の長い指を、古良井はすんなりと飲み込んだ。
「んっ……んん……❤︎」
ぎゅうと、一所にしがみつく。
中指と薬指で中を擦られ……いやらしく波打つ指が、古良井の中を、くぷくぷとかき混ぜる。
ひくつく古良井の襞が実に淫猥だ。
アナルから滴ったローションが、一所の腕を伝って、シーツを汚した。
「やっ……あっ……❤︎ あっ……❤︎」
ぬぽっ❤︎
古良井がすっかりとろけきった頃、一所の指が引き抜かれた。
一所は何も言わずに古良井に口づけると、べったりと舌を押し当てて古良井の舌をすくい取り、吸い上げる。
「んんんっ❤︎」
そちらに気を取られた瞬間。
熱い剛直が、古良井のアナルを貫いた。
ずっぷ❤︎
「ン”ん“んん〜〜〜❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎」
眦に涙が浮かぶ。
ギチギチに古良井の中を押し広げながら、一所の陰茎が挿入って来る。
「朔太郎。息をして」
耳元で一所が、はあ、と、息をつく。
締め付けがキツイのだ。
古良井は息をしようとするも、うまく息がつげない。ただ、きゅんきゅんと、自分の中が締まってゆくのがわかった。腹の中に、くっきりと一所の形がわかる。咥え込んでしまっていることに、古良井も慌てた。
「あ……❤︎ やだ……やだぁ❤︎ ごめんなさ……はじめさあ……の、大きくて、んっ……❤︎抜いて……くださっ❤︎」
「ごめんね、それは嫌だな」
ずん、と、奥へと突かれた。
「あっ……❤︎」
古良井が喋ったことにより、力が抜けたようだ。
一所は動けるようになったのを良いことに、激しく腰を打ち付ける。昼間のゆっくりが、嘘のようだ。
「あっ……あ……っ❤︎ あっ……やっ、だめ……はじめさ……ひどい……」
「うん、ごめんね」
ちゅうと、涙の浮かぶ古良井の瞼にキスをして、一所は腰を振り続ける。
どちゅっ❤︎ どちゅっ❤︎どちゅっ❤︎
全くペースが落ちないまま、激しく揺さぶられ、古良井のつま先がピンと伸びた。
「ひっ……❤︎ぁあ、あ❤︎ や、イク……いっちゃ……やあ❤︎〜〜〜〜〜〜ッッ❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎」
古良井の声が掻き消える。ガクガクと腰が揺れるが、薔薇色の陰茎は何も吐き出していない。
中で、いったのだ。
「んっ……」
激しい古良井の締め付けに、一所も搾り取られ、古良井の奥へとビュルビュルと吐精する。
ゴムをつけていなかったな、と、一所は一瞬我にかえるも、快感に飲まれて、そのまま腰を押し付けて全てを古良井の中へと注ぎ込んだ。
「は、あ……❤︎ はじめさんの……なか……また……やだ……ひどいです……んっ❤︎」
余韻にビクビクと身を震わせ、古良井が非難の声を上げる。
「うん、ごめん、僕もちょっと……夢中になりすぎた……」
古良井に覆いかぶさったまま、一所はそのまま、動かない。
「ハジメさん?」
だいぶ意識の戻った頭で、古良井が声をかける。
一所は、申し訳なさそうに、古良井の顔を見た。
「ごめんね、今動いたら、また始めてしまいそうで……」
「ええ?!」
「それとも、いいかな」
「まって、まだいったばかりで」
「すまないね。ダメだ、やっぱりしたい」
ゆるゆるとまた、一所の腰が動き出す。
「うそ、やだ、やめてくださ……ぁっ❤︎」
朝方、古良井の声が掠れるまで。
── 一所は抜かずに、古良井を攻め立てた。
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