3 / 5

第3話 部屋

     一所がいつもより少し早めに一日の業務を終え、帰宅したのは8時手前のことだった。  マンションについて、車をパーキングに入れると、エレベータで上がる。  自宅の鍵を開けて入り――が、人の気配がない。  居間を覗いても古良井の姿はないが、玄関に彼のスニーカーはあった。  一所は一つ目の空き部屋を覗く。  そこはゲストルームでベッドが置いてあるばかりだ。  古良井の姿はなかった。  もう一つの部屋は、ソファと本棚が並ぶ部屋だが、そこにもやはり古良井の姿はない。  一所は少し考えてから、最後のドアを開けた。 「ここは僕の部屋なんだけどね」  自分のベッドで丸くなって眠る古良井の姿を見つけて、一所は、苦笑した。       ◉ 「ただいま、古良井くん」  一所は、すーすーと寝息を立てる古良井の耳元で声を掛けた。  パチリと黒い瞳が開く。 「この部屋が良いのかい?」  たずねれば、古良井はこくりと頷いた。 「分かった。少し荷物を片すか……さて、お腹が空いたね? 何か食べたいものはあるかな。食べれないものがあるなら教えて欲しいな」 「……なすびは嫌です」 「そうか。好きな物は?」 「……果物」 「うん。じゃあ、黒西瓜があるから、デザートにはそれを食べようか。夕飯は、そうだな……僕の好きな物で悪いんだけど、鰻の白焼きと蜆の味噌汁で……お酒は?」 「……飲めません」 「よし、ご飯を炊こうか。僕は晩酌するので夜は白飯を食べないから用意が無くてね。早炊きするから少し味が落ちるかも知れないけれど……」 「……いらないです。ごはん」 「え?」 「同じの……飲んでみたいです。お酒」 「うーん。大丈夫かな。日本酒のつもりだったけど……それじゃあスパークリングワインの軽いのにしようかな。5%くらいの物ならいけるかなあ……」  一所は、独りごちながら、ベッドに腰掛ける。  ふと、自分を見ている視線に気がつき、一所は古良井を振り返った。 「ああ、そうだ。お帰りなさいのキスを貰おうか」  言って、顎を掬い上げ、軽く唇を重ねる。 ――なんでこうなったのかな。  古良井は柔らかい唇を押し当てられながら、ふと我に返った。 ――俺の身体が気に入ったんだろうか……だとしたら、ハジメさんが、えっちでよかった。  ちゅくちゅくと軽いリップ音を立てる一所のくちづけは、少しだけいやらしい色をまとって――そのふれあう舌先に古良井は溶ける。  ちゅ……っ……ちゅく……♥ 「ん……ッは……ぁ♥」  くるるる。  キスが熱を帯びた辺りで、古良井のお腹が可愛い音を立てた。 「……ごはんにしようか、古良井くん」 「……はい」       ◉  デパ地下で買った鰻は暖め直すだけだったし、味噌汁は蜆を入れるだけだし、ワインはコルクを抜くだけだったので、夕食の支度はすぐに終わった。  デザートの黒西瓜もカットして冷やしてあるので、冷蔵庫から出せば良いだけだ。  居間のテーブルに皿を置くと、二人は並んでソファに腰掛ける。  一所はテレビが好きではないので、そこに備え付けられている物の、画面は暗いまま、向かいに座るふたりの姿をぼんやりと映し出していた。 「ん?」  テレビを見つめる古良井に気がつき、一所はリモコンを渡す。 「見たいドラマでもあるなら、つけると良い」 「いいんですか?」  古良井は喜んで海外ドラマにチャンネルを合わせた。  ネカフェに泊まれていた間は追えていたけれども、2週開いてしまった。しかし、幸いなことにのろのろと進むドラマの展開は、古良井を充分追いつかせることが出来た。 「これどんなお話なの?」  鰻をぱくつきながら訊ねる一所に、古良井は楽しげにあらすじを話す。 「ふうん。そうなの」  たわいもない話をして……一所が、気がついた時には遅かった。  話に夢中になって、飲みやすいスパークリングワインをついつい口へ運んだ古良井が、トイレに行くと立ち上がった瞬間、潰れたのだ。 「古良井くん?!」  ふらりとソファに倒れ込んだ古良井を抱き起こす。 「ふふ。はじめさあん」  古良井の声は陽気なままだ。  一所は胸を撫で下ろした。 「俺、ホントに、ここにいていいんですかぁ?」 「ん、いいよ」 「俺、居場所がどこにもなくて、探しに来たんです。東京なら見つかるかなって……」 「そうか」 「ひとつきかかったけど、見つかってよかったです。ふふ。ここ、俺の場所……」  一所の首に両腕を回して、古良井はその胸板に頭を擦り付ける。 「古良井くん」 「俺、朔太郎っていうんですよお。教えたじゃないですかぁ」 「今夜は饒舌だね。朔太郎くん」 「うん? そうですかぁ?」 「困ったな。朔太郎くん、可愛いね。昼間もしたけれど……僕、さっきの続きがしたいな」 「え……」 「うん、したいな。すまないね、朔太郎くん」  一所は残りのワインをあおって、返事を待たずに古良井を抱き上げる。 「僕のベッド、気に入ってくれて嬉しいよ」  軽々と運んで、古良井を寝室のベッドへと押し臥した。       ◉ 「あっ❤︎ あっ……あっあっ……❤︎」  容赦なかった。  一所は酔って少し鈍い古良井をするりと脱がせると、サイドボードからローションを出して、乳首と陰茎をヌルヌルに弄り倒す。  くりくりと乳首を捻り潰され、指の先でぴんと弾かれた。 「やっ……あ……っ❤︎」  同時に陰茎をちゅこちゅこと扱かれ、耳の中にまた、舌が入ってくる。 「それ、ダメです……やぁ……あ、はじめさぁん❤︎」  舌ったらずに呼ばれる名前がたまらない。  一所はローションを絡めた指で、古良井のアナルをぬぷぬぷとほぐしにかかる。  昼間2度ほど押し入ったのもあってか、一所の長い指を、古良井はすんなりと飲み込んだ。 「んっ……んん……❤︎」  ぎゅうと、一所にしがみつく。  中指と薬指で中を擦られ……いやらしく波打つ指が、古良井の中を、くぷくぷとかき混ぜる。  ひくつく古良井の襞が実に淫猥だ。  アナルから滴ったローションが、一所の腕を伝って、シーツを汚した。 「やっ……あっ……❤︎ あっ……❤︎」  ぬぽっ❤︎  古良井がすっかりとろけきった頃、一所の指が引き抜かれた。  一所は何も言わずに古良井に口づけると、べったりと舌を押し当てて古良井の舌をすくい取り、吸い上げる。 「んんんっ❤︎」  そちらに気を取られた瞬間。  熱い剛直が、古良井のアナルを貫いた。 ずっぷ❤︎ 「ン”ん“んん〜〜〜❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎」  眦に涙が浮かぶ。  ギチギチに古良井の中を押し広げながら、一所の陰茎が挿入って来る。 「朔太郎。息をして」  耳元で一所が、はあ、と、息をつく。  締め付けがキツイのだ。  古良井は息をしようとするも、うまく息がつげない。ただ、きゅんきゅんと、自分の中が締まってゆくのがわかった。腹の中に、くっきりと一所の形がわかる。咥え込んでしまっていることに、古良井も慌てた。 「あ……❤︎ やだ……やだぁ❤︎ ごめんなさ……はじめさあ……の、大きくて、んっ……❤︎抜いて……くださっ❤︎」 「ごめんね、それは嫌だな」  ずん、と、奥へと突かれた。 「あっ……❤︎」  古良井が喋ったことにより、力が抜けたようだ。  一所は動けるようになったのを良いことに、激しく腰を打ち付ける。昼間のゆっくりが、嘘のようだ。 「あっ……あ……っ❤︎ あっ……やっ、だめ……はじめさ……ひどい……」 「うん、ごめんね」  ちゅうと、涙の浮かぶ古良井の瞼にキスをして、一所は腰を振り続ける。  どちゅっ❤︎ どちゅっ❤︎どちゅっ❤︎  全くペースが落ちないまま、激しく揺さぶられ、古良井のつま先がピンと伸びた。 「ひっ……❤︎ぁあ、あ❤︎ や、イク……いっちゃ……やあ❤︎〜〜〜〜〜〜ッッ❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎」  古良井の声が掻き消える。ガクガクと腰が揺れるが、薔薇色の陰茎は何も吐き出していない。  中で、いったのだ。 「んっ……」  激しい古良井の締め付けに、一所も搾り取られ、古良井の奥へとビュルビュルと吐精する。  ゴムをつけていなかったな、と、一所は一瞬我にかえるも、快感に飲まれて、そのまま腰を押し付けて全てを古良井の中へと注ぎ込んだ。 「は、あ……❤︎ はじめさんの……なか……また……やだ……ひどいです……んっ❤︎」  余韻にビクビクと身を震わせ、古良井が非難の声を上げる。 「うん、ごめん、僕もちょっと……夢中になりすぎた……」  古良井に覆いかぶさったまま、一所はそのまま、動かない。 「ハジメさん?」  だいぶ意識の戻った頭で、古良井が声をかける。  一所は、申し訳なさそうに、古良井の顔を見た。 「ごめんね、今動いたら、また始めてしまいそうで……」 「ええ?!」 「それとも、いいかな」 「まって、まだいったばかりで」 「すまないね。ダメだ、やっぱりしたい」  ゆるゆるとまた、一所の腰が動き出す。 「うそ、やだ、やめてくださ……ぁっ❤︎」  朝方、古良井の声が掠れるまで。  ── 一所は抜かずに、古良井を攻め立てた。

ともだちにシェアしよう!