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4 あなたといると
遅い朝。
夏の日差しが、厚いカーテンを閉め切った部屋の中をぼんやりと照らし出している。
──眠っていたのか。
一所は熟睡していた自分に驚いた。
人と一緒に眠ることなど、自分は到底不可能な人間だと思っていたからだ。
誰と同衾しても、今まで、一所は一睡も出来たことがない。
『貴方は眠らないんですね』と、悲しい顔をされる事もあった。
正直。
古良井に【空いている】部屋を選べと言ったのも、そのせいだったのだが――同じ部屋が良いと自分のベッドで丸くなっている姿を見た時には、困ったな、と思っていた。
──まあ、朔太郎が眠った頃を見計らって、自分はソファで仮眠を取れば良いか。
そう決めて、部屋を一緒にする覚悟でいたのだが。
時計は9時……もう10時近くを指していた。
──……5……いや6時間は寝たな。
一所がこんなに眠ったこと自体、久しぶりの出来事だった。
──この子となら暮らしていけるだろうか。
一所は、腕の中に眠る古良井の肩に、くちづけを落とした。
◉
古良井が起きぬようそっと起きだして、一所は食事の支度を始める。
フレンチトーストとカフェオレ。
オレンジを切って、トマトとモッツアレラのサラダを用意した。
アルコールランプに火を点けると、サイフォンでコーヒーを淹れる。
昨日食べ損ねた黒西瓜も出してテーブルに並べた。
赤い塊をひとつつまむと、冷え切っているのに、しっかりと、甘い。
「おはようございます」
振り返れば、昨日裸のまま寝た古良井が、目を擦りながら、シーツを巻き付けて起き出してきていた。
「俺の服、知りませんか?」
「ちょっと待っていて」
一所は、おろす前の下着と、自分の紺のサマーセーターにジーンズを持ってきて古良井に手渡す。
古良井は大人しく受け取ると、ソファでもそもそと着替え始めた。
「大きい……」
ふふふ、と笑いながら、古良井はセーターの袖を折り、ジーンズをロールアップする。
色白の細い足首と手首が、余計に目立った。
「出来たよ」
一所は椅子を引いて、古良井を呼ぶ。
古良井は席に着くと、いただきますと言って両手を合わせた。
「声、少し枯れたね。ごめんね」
サラダにオリーブオイルを回しかけながら、一所が謝る。
「もっと、謝ることあるんじゃないですか」
ちろんと上目遣いに睨まれて、一所は、う、と声を漏らした。
「次回から、ちゃんとゴムをつけます……」
他に思い当たらない。
「違います! やだって言ったら、ちゃんとやめて下さい」
一所が驚いた顔をした。
「そんなこと言われたの、初めてだ」
一所にとって、抱いている時に言われる「やだ」も「だめ」も、うわごとの「もっと」の仲間だと思っていたからだ。
「ホントにやめていいの?」
重ねて聞かれ、古良井は顔を赤くする。
「……はい」
「わかった。じゃあ、そうしよう」
一所は、カフェオレに口を付けてから、思い出して古良井にたずねた。
「あれ? じゃあ、生は別によかったの?」
「ハジメさんっ!」
その古良井の顔を見て、問題は無かったようだ──と一所は判断した。
◉
遅く起きた今日、一所の仕事はオフだった。
洗濯機を回しながら、一所は居間のソファで読みさしていた本を開く。
古良井にはiPadを渡して、好きなスマートフォンを選ばせていた。
古良井は迷わず、カメラの良いスマホを選んで一所を呼ぶ。
「これかい? わかった、頼んでおこう」
「ハジメさん」
「うん?」
「愛人って、何をすれば良いんですか」
「僕とえっちな事しようよ」
「それだけですか?」
「ええ?」
一所は古良井の顔を見る。
真剣な面持ちだった。
「君は何がしたいの?」
「……もっと、役に立ちたいです」
「じゃあ、君は何が出来るの?」
「……わかりません。でも、何でもします」
「そう」
一瞬暗い顔をした一所は、すぐに微笑みを取り戻すと、ぽんぽんと古良井の頭を叩いた。
「順々にね。色々覚えて貰おうかな」
「はい!」
◉
──それがなんで、こうなちゃうのかな。
出来上がった洗濯物を畳んでいたはずのふたりは、気がつけば居間でいやらしい事を始めてしまっていた。
現在、古良井はソファに座り、一所から丹念なフェラを受けている。
──確か、下着はボクサーかトランクスか、どっちを買ってこようか、そんな話をしながら洗濯物を畳んでいただけだったはずなのに。
「んっ……ふ……っ♥」
──本当にもう、昨日からえっちなことしかしてない……
「ぁ……っ♥」
柔軟剤の匂いに包まれて、古良井の頭の中には気持ちいいしかない。
「ハジメさ……ん……ッ♥♥」
焦らすように根元を擦り上げながら、一所はカリ裏を舐め上げる。
「ん……や……やだ……♥」
ぴたりと、一所の動きが止まった。
「……ぇ?」
はあはあと息を吐く。
一所が顔を上げてじっとこちらを見ていた。
「ぁ………」
──嫌だと言ったら、やめろと言ったのを……
けれどそれは、当てつけというわけでもなさそうだ。
一所は真剣な顔で、古良井の様子を伺っている。
古良井の目を見たまま、一所は鈴口に舌を押し当てて、ちゅうと吸い上げた。
「ひ…ぁ……♥」
喉元をさらして、古良井が声を上げる。
「今の、本当に嫌だった?」
古良井はふるふるとかぶりを振った。
一所は安心して大きく口を開くと、喉奥まで古良井の陰茎を飲み込む。
「んあ……ぁああ♥」
焦らされていたもどかしさが解消され、古良井は思わず声を上げた。
激しく頭を振って一所は古良井を追い上げる。
「ハジメさ……んッ♥」
ぴゅくぴゅくと、一所の口の中に精を吐き出して、古良井が果てた。
それを飲み込んで口元を手で拭う一所の頭を、古良井が抱え込む。
「朔ちゃん?」
引き寄せて、古良井は一所にくちづけた。
自分の味も匂いも一緒くたにして、舌を絡める。
一所が顔を背けようとしても、古良井はしがみついて離れない。
諦めてキスに専念しようとすると、古良井の気が済んだのか、ようやく頭を解放された。
見れば、古良井が、涙の滲んだ目で、自分を見ていた。
「ハジメさんは……俺のこと、好きなんですか?」
一呼吸置いて、一所が驚く。
「ええ?!」
一所が、そんなことを言われたのも初めてのことだった。
一所にとって性行為は、愛情表現以外の何物でも無かった。好き、と言うよりもキスしたい。愛していると言うよりも貫きたい──のだが。
どうして今まで自分の元を恋人達が去って行ったのかが分かったような気がして、一所はソファの横へ並んで座った。
「ええっと、僕はその……」
古良井の肩に腕を回して抱き寄せる。
「君のことを、とても気に入っていて──」
上手く言葉に出来ない。
一所は困ったような顔をして、今度は自分からキスをしかけた。
「ん……♥ んッ♥」
──これが答えなのかなあ……。
古良井は、一所から言葉を引き出すのを諦め、そのまま、流されることにした。
◉
──僕の方はとっくにそのつもりだったんだけどな。
居間で古良井をそのまま抱いてしまって、疲れ切った古良井は、ソファで眠ってしまっている。
一所の手は早い。
それはそうだ、好きと言う代わりにくちづけるのだから、どうしたって身体の関係が先に来る。
ダイニングテーブルの椅子に逆しまに座って、背もたれに肘を突きながら、一所はグローを吸い付けた。
この感情は。
──好き、で、合ってると思うんだけど。
ふーと長い息を吐く。
──出会ったのは昨日。
「……伝わらないものだね」
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