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第7話

 獅堂が海外赴任の任期を終えて帰国したのは、それから三ヶ月後のことだ。  ちょうどその頃リハビリを終えた日路も、仕事を再開。  日路の復帰一本目の仕事は、眞柴と新條が一緒に出ている昼時のバラエティ。その番組内のチャレンジコーナーで終わりしな、日路は、司会アシスタントの女子アナから復帰の花束を受け取り、三人で楽屋へと戻った。 「ああ、お腹が空いたね。日路、僕らと一緒にお昼、食べて行きなよ。今、お茶入れるから」  新條は手際よく三人分の湯呑みを用意する。 「ありがとう、新條。そうさせてもらおう」  日路は、椅子を引くと花束をテーブルに置いた。  遅い昼食は用意された仕出し弁当だ。  眞柴は、弁当の折を前に、正面に座っている日路をじっと見つめた。 「どうした? 眞柴」  日路は苦笑する。 「また、こうやって日路といれてうれしい」  クリティカルのリーダーは、そう言って満面の笑顔で答えた。 「僕も嬉しいよ、日路」  淹れた茶を手渡すと、新條も席に着く。   そこへ。  バタバタと慌ただしく駆け込んできたのは、マネージャーだった。 「日路! どう言うつもりですかこのメールは!」  血相を変えた彼の様子に、眞柴と新條は日路を振り返る。 「希望です。呑んで頂きたい」 「そんな、何もかもがようやく元のレールに戻ったところじゃないですか! どうしてまた世間を荒立てるようなことをするんです!」 「元のレールに戻るつもりはありません」 「日路、どういうことだ?」  眞柴がたずねる。 「答えなくて良いです日路」  マネージャーの言葉に日路は険しい表情をした。 「それは、貴方が決めることではない」 「二人とも、落ち着いて。日路、その顔は一緒の仕事仲間にする顔じゃないよ。マネージャーも、言い方!」  新條のとりなしに、二人の間の緊張した空気が弛む。  眞柴は、マネージャーに断りを入れた。 「おれたちはクリティカルというチームです。二度とおれたちから日路をとりあげるようなまねはしないでほしい」  眞柴の発言はいつも真っ直ぐでシンプルだ。 「日路、はなせることを、おれたちにきかせてくれないか」  はたして日路は眞柴に答えた。 「私は、記者会見を事務所側に申し出た」 「記者会見?」 「本当のことを話す機会が欲しいと」 「それはリスクが大きくはないかな」  新條は心配そうに口を挟む。 「委細承知の上でだ。私のパートナーもそれを望んでいる。お互いに話し合って決めた」 「鎮火した火をまた燃やすことになるよ?」 「それでもだ。私たちは、もう、お互いの薬指から指輪を抜いて生きていきたくはない」 「わかった」  日路の毅然とした言葉に、眞柴が頷く。 「おれには、それがただしいみちなのか、あやまっているのかわからない。けれど、日路がそうしたいというのであれば、おれは、全力で日路たちのちからになりたい」  新條は仕方ないね、と両腕を拡げた。 「そこまでの覚悟があるのなら、僕も応援させて貰うよ」  三人は、揃ってマネージャーを見た。 「私たちが勝手に発表するのと、事務所を通すのと、どちらを選ぶかはそちらの自由だ」 「脅さないでくれ……わかった、事務所に掛け合う。君たちは、うちのドル箱なんだ。頼むからもう少し自覚をしてくれ」  マネージャーはこめかみを押さえて溜息をついた。         ◉  その記者会見を獅堂が見たのは、翌朝の芸能ニュースでのことだった。  会見にはスーツ姿のクリティカル全員が揃っていて。  中央に眞柴、その隣に日路がいた。  会見の内容は次の通りだ。  日路には現在交際相手がいること。  それは、一年前に報道された一般人男性で間違いはなかったこと。  クリティカルのメンバーは全員がふたりの交際を応援していると言うこと。  最後にマイクに向かって、眞柴が終わりの挨拶を述べた。 「だから、どうか皆さんも、かれらの交際を偏見をもたずに、あたたかくみまもっていただければ、うれしいです。メンバー全員からも、どうか……」 「「「「「よろしくお願いします」」」」」  全員が起立し、頭を下げる。  以上で記者会見は終了。  テレビ画面ではパシャパシャとフラッシュがたかれる中、五人は静かに退場していった。   獅堂は口の中で、小さく、ありがとう、と五人の背中に呟く。  身支度をすませると、もう出勤時間だ。獅堂は、以前と同じようにバスに乗り、駅へと向かう。  オフィスは一年前と変わらずそのままで。  デスクに着いて私物を収納していると、獅堂は肩を叩かれた。 「洋行帰り、といったところか、獅堂」 「佐々木」 「元気そうだな、またよろしく頼む」 「ああ」 「今日は、お前から俺が引き継いでいた顧客に、担当が戻る挨拶回りが入っている。最初のアポは十一時だ、十時半には一緒に出たい」 「分かった」  車内で細々とした手続きをすませると、あっという間に時間になり。  佐々木と連れだって社を出る。  と。  獅堂の背中に何かが当たった。  ぐしゃりとした感触の正体は足下に落ちた──割れた生卵だ。 「獅堂?」  獅堂は汚れた背広を脱いで背中を内側へ折りたたむと、そのまま真っ直ぐに前を見て歩き出す。 「どうした?」 「何でもない、行こう、佐々木」  獅堂は佐々木の背を押した。  ──覚悟はしていたが、昨日の今日でこれか。  一年前のニュース映像が容易に引き出せる現在、獅堂の面は割れている。周りの人間の中にはそれが獅堂であると気づく者も居るだろう。  おそらく、一年前に獅堂へ疑いを持った人間が昨日のニュースで確信を得て、愚行に及んだようだ。  憎悪の対象が、ゲイであることに向けられた嫌悪なのか、日路の熱狂的なファンによる嫉妬故の犯行なのか、あるいはそのいずれもであるのか。  ──なんだって知るものか。俺はもう絶対に礼一郎を放さねぇ。  獅堂への嫌がらせ行為はたびたび起こり、その内容はだんだんに凶悪さがエスカレートしていった。  ある朝、獅堂がポストに新聞を取りに出ると、チラシのようなものが投げ込まれていた。  開いた瞬間に、ぞっとする。  文面は誹謗中傷が並んだ後、自分で死ね、さもなくば殺す、とあった。別に内容は気にはならなかったが、ただ、それは生き物の血で書き殴られていたのだ。  急いで庭の犬舎を見に行く。  四匹は、無事だった。  獅堂は週末、実家へ犬たちをまた預けに行こうと決める。  左手の指輪にキスすると、獅堂は出社した。  ──家までつきとめられるとはな。嫌がらせってのは随分ねちこいモンだ。  なんとか、週末まで仕事を乗り切って、獅堂は犬たちを連れて車を出す。  実家の両親は、海外赴任中に慣れた犬たちとの別れをさみしがっていたので、犬たちとの再会を喜んでくれた。  理由を聞かずにいてくれる両親には、いつも感謝せざるをえない。  お前が元気ならそれでいい、と、両親は笑って獅堂を送り出した。    ──これで、ひとまずの懸念はなくなった。  帰りの高速を走らせながら、交通情報を聞くためにラジオをつけっぱなしにしていると、流れ出したのはクリティカルの曲で。  日路のパートはすぐに分かる。  特徴のあるバリトンの声だ。  ──声が戻って、本当に良かった。    獅堂は、自分に向けられている悪意の数々を日路には話していない。  別に言うまでのことでもない、心配を掛けるだけだ、と考えていたからだ。  ネットでどんなゴシップが流れているのか、獅堂はそれも極力無視している。    ──以前と同じだ、時間が経てば忘れられるだろう。  獅堂は、テールランプの続く首都高に入って、冷め切った缶コーヒーに口を付けた。       ◉  獅堂が日路と出会ってから、三度目の十二月に入った。 「あ? クリスマス?」  今年は、一緒に過ごしてみたい、と日路からの連絡に、獅堂は笑顔がこぼれた。  二人はお互いが多忙ゆえ、それまで一度もクリスマスを一緒に過ごせたことがなかった。 「いいな、それ。イブか? 当日か? 礼一郎の休みが取れるのは」 『当日でも良いだろうか』 「何処か行きたいところでも?」 『貴方の家で過ごしてみたいな、一日、ゆっくりと』 「うちかよ」 『貴方とはいつもホテルで、チェックアウトする時が、いつも少し寂しい』 「わかった」 『洗面所に歯ブラシを置かせて貰っても?』 「買って用意して待ってる」  獅堂は笑いながら、電話を切った。  二週間後、獅堂は一度帰宅してから、日路を迎えに車を出して、都内のスタジオ前で出待ちをすることにした。  街の中はクリスマスのイルミネーションが明るく照らし、車内にいても眩しいほどだ。  車を路肩に寄せて日路を待つ。  獅堂が疲れて──度重なる嫌がらせにさすがの獅堂も少し疲れたようだ──うたた寝していると、運転席の窓をノックされる。  日路だ。  獅堂は助手席を空けて、日路を乗り込ませた。 「良いのだろうか、本当に身ひとつで来てしまったが」 「俺がそう言ったんだ、良いだろ? 下着は新品買っておいたし。バスボムも買ってある」 「バスボム?」 「クリスマス限定のやつだから、楽しみにすると良い」 「貴方は何でも知っているんだな」 「俺がって言うか──」  昔、元カノ達に色々とねだられて、とは言えずに獅堂は口を閉じた。 「獅堂?」  日路はその先を待っている。 「まあ礼一郎より十も歳食ってんだ当然さ」  と答えて獅堂はウィンカーを点け、車を出した。  高速を走る間、二人は子供の頃のクリスマスについて話し合った。 「うちはさ、俺の誕生日が十二月二十七日なモンだから、いつも、冬休みに入る二十四日に、クリスマスと誕生日を一緒にされちまって、プレゼントは一個だし、お御馳走を前に通知表を出して、査定を受けてからじゃないとパーティーが始まらなくてさ」  獅堂は今思い出しても腑に落ちない、と言う顔をしている。 「家族と一緒だったのか、羨ましいな」 「ええ?」 「私は、小学生の頃にはもう、今の仕事に関わっていて、クリスマスはいつもイベントごとに繰り出されていた」 「マジかよ」 「クリスマスらしいクリスマスをしていたのは、もう随分と昔の話だ。幼稚園の頃だろうか、最後の記憶も定かではない」 「これから」 「?」 「俺と好きなだけこういう時間を重ねていこう、礼一郎」 「……ああ」  獅堂の家は、海からほど近い丘の上にぽつんと建っていた。  日路がここを訪れたのは、門の外まで来たあの日以来のことだった。  車を車庫に入れると、獅堂は日路を連れ、玄関を開ける。  車庫の奥には、ずらっと薪が並んでいるのが印象的だった。 「ここは元々別荘として使われていたんだ。部屋数は多くないが、薪ストーブがあるのが気に入っている。入ってくれ」 「お邪魔します」  玄関を入ると、二十畳ほどの居間と、その奥に三畳ほどのキッチンが見えた。 「二階は寝室とバスルーム、あと書斎になってる」  薪ストーブの前にはローテーブルが置かれ、座り心地の良さそうなカウチが、その正面に据えられていた。 「温かい」 「点けっぱなしだからな」  笑いながら獅堂はキッチンへと向かった。手を洗い、用意していた食事を温めて次々と日路の前へと運ぶ。 「料理、悩んだんだけど、ベタにさ。美味いよな、ケンタッキー」  冷蔵庫からは、作り置きされていたらしいコブサラダとシャンパンを出してくる。  カナッペの載った平皿とフルーツの盛り合わせを置くと、獅堂は、日路の隣に腰を下ろした。 「シャンパン、開ける」  器用に栓を抜いてグラスに注ぐと、日路の手に持たせる。 「メリー・クリスマス、って言うんだぜ」  獅堂は自分もグラスを手に取ると、メリークリスマスと言って、日路とグラスを合わせた。 「メリー・クリスマス」  日路もそれに答えて、グラスに口を付けた。 「あー食べたな」  食事を終えると、テレビは昔の映画を流していた。クリスマスに合わせたプログラムは日路が生まれるの映画で「ラブ・アクチュアリー」と言うクリスマスをテーマにしたオムニバスムービーだ。  二人は二本目のワインを開けてそれを眺める。  映画が佳境に入る頃には、ふたりは、カウチでキスを始めていた。  ちゅ……っちゅく……  日路を座面に押し伏せて、獅堂は抱え込むようにくちづける。 「……はぁ、獅堂、シャワーを浴びたい」 「ん……そうするか。二階、風呂入れてくる」  ゆったりとしたバスルームに湯を張ると、日路を呼んだ。 「これな、タオルと、着替え。パジャマは俺からのクリスマス・プレゼントだ。これ着てゆっくり寝てくれ。それと、な、バスボムこれ」 「すまない獅堂、私からのプレゼントは何も用意がない……」 「よかった」 「よかった?」  獅堂の思わぬ返事に、日路は思わず聞き返した。 「俺さ、礼一郎から欲しいモンがあって」 「私から?」 「俺のこともさ、孝司って、名前で呼んでもらえないか?」 「──いいのか?」 「イイも何も……え?」 「私も、ずっと貴方をそう呼びたいと思っていた」  日路は、獅堂の顔を引き寄せてくちづける。 「孝司、素敵なプレゼントをありがとう」 「礼一郎こそ……さ、風呂に入ってくれ」 「貴方も一緒に入らないか?」 「俺と?」 「良いじゃないか。孝司、一緒に入ろう」  獅堂は日路に手を引かれ洗面所に連れ込まれた。お互いに服を脱がせて、二人は浴室に入る。  日路は、獅堂に手渡されたバスボムを浴槽に落とし込む。甘い香りと共に紺色に染まった湯には、金のラメが散った。中から、星や月のようなトッピングが現れ、夜空のような湯船となる。 「すごいな」  日路はてのひらで湯を掬い上げた。 「星空に浸かっているようだ」 「香り、大丈夫か?」 「この匂いは好きな種類だな」 「よかった」  日路と向かい合って湯船に浸かる獅堂は、日路の鼻先に唇を落とす。  二人はクスクスと笑いながら身体を洗い合うと、バスルームを出た。 「礼一郎」  髪を乾かすのももどかしく、獅堂は日路をベッドに呼ぶ。  日路に触れるのは、別れる前に抱いた以来のことで。 「やり方、忘れちまった」  獅堂のぼやきに、日路が笑う。 「したいように、すればいい」 「例えば?」 「私はキスがしたい」 「分かった」  獅堂は日路にのし掛かると、濃厚なキスを始めた。 「んっ……」  ──キスを教えてくれと言われて、くちづけたあの日から。  獅堂はキスをしながら日路の身体をまさぐり、足を開かせる。 「……はぁ…」  唇を放して身を屈めると、獅堂は最初の夜にしたように、日路の陰茎に舌を押し当てた。 「ぁ……っ」  そのまま飲み込んで、しゃぶりあげる。  じゅぷ……ちゅぷ……っ  日路がたまらず獅堂の髪に手を梳き入れた。 「孝司……んっ……」  ──俺は、礼一郎に夢中なんだ。  獅堂はべったりと押し当てた舌でカリ裏を舐め上げる。日路の喉の奥がくぅと声を漏らした。  ──愛おしい愛らしい、俺の礼一郎。  獅堂は、無心に首を振って、日路を追い上げる。 「んっ…んっ……もう出る、孝司っ……はなし……ッ」  獅堂はそれを無視した。 「ぃやだ、こぅじ……やめてくれ……っ」  真っ赤な顔で身もだえる日路の陰茎を深く飲み込み、口の中で果てさせる。  びくびくと日路が身体を震わせた。  ふーふーと息を着いていた日路は起き上がると、獅堂を押し返す。 「礼一郎?」 「お返しだ」  日路は獅堂の足の間に顔を埋めたどたどしく舌を使い始めた。 「ははっ……無理する……な…っ」  笑う獅堂に、日路は陰茎を咥えたままジロリと睨み上げた。 「……うっ」  その倒錯的な眺めに。  獅堂は思わず達しかけ、日路の肩を掴んで口元から引き抜いた。 「あっ」  小さく声を上げた日路の口元からは、はしたなく唾液がこぼれ、口淫に赤らんだ唇を濡らす。  もういちどその唇に陰茎を突っ込みたくなる衝動をなんとか堪えて、獅堂はサイドチェストからコンドームとローションを取り出した。  獅堂はゴムを手早く着けると、ふーふーと肩で息をしながら、日路の腰を掴んでうつ伏せにさせ、尻を高く上げさせる。  無防備な姿勢に、日路が怯んだ。 「孝司、恥ずかしい。この体勢は……ぁあッ」  ぬるりと、獅堂の舌が日路のアナルに入り込む。 「や……め……孝司…どうしたんだ、今日は……こんな……ッ」 「したいようにしていいんだろう?」  舌先を堅く尖らせた、獅堂の熱い舌が幾度も柔襞をかき分けて入ってくる。 「孝司っ!」  ちゅぷ……っ  獅堂は舌を引き抜くと今度はローションを手に取り、揉み込んで温ませたその指先で、愛おしげに襞をなぞったかと思うと、ゆっくりと中指を侵入させる。  中を拡げるのももどかしげに獅堂は指で掻き混ぜると、前立腺を探り当てる。  こすこすと指先で可愛がれば、日路の腰は自然に浮き上がった。  その背中にキスをして指を引き抜くと、獅堂は待ちきれずに膨れ上がった陰茎を握って、日路のアナルへと押し当てる。    ──挿入ってくる。  日路の身体にぞくぞくとした感覚が走り抜け。  ずぷ……ぅ……ッ  獅堂はひと息に腰を進めて、根元まで日路を突き上げた。 「ぁあ……っ」  声を上げて仰け反る日路。  その腰を掴むと、獅堂は容赦なくアナルを犯した。 「ぁ…っ、あ……っ、あぁ…っ……あっ……」  獅堂に嵐のように突かれるまま、日路は声を漏らす。  熱い陰茎が胎の中をぬるぬると何度も出入りし、引き抜かれる度にカリに内壁を拡げられた。  容赦のない抽挿に、日路はただただ枕にしがみつくしかない。 「ぁ……ぁ……あッ……ァアッ………ッ!」  前立腺をひたすら突かれ、日路の奥がじんわりと綻んでいく。やがて開いた日路の結腸を、獅堂の陰茎が深く突き上げた。 「……ッ~~~~~~~~~~~!」  日路は、声もなく悲鳴を上げる。  獅堂は力任せに日路をひっくり返そうと、枕から引き剥がす。  ぎゅうと日路の中が締まり、体勢を変えようと引き抜いた陰茎からコンドームが脱げた。 「すまん、礼一郞」  獅堂は外れたコンドームを投げ捨てる。  換えを取りにいったん日路を放そうとすると、その日路に足を絡みつけられた。 「そのままでいい、孝司」  上気した頬。  快楽に溺れた瞳が潤んでいる。 「~~~~~~~~~~くそっ」  獅堂は、日路の唇を塞ぎ舌を絡ませた。 「んっ……んン……ァあっ……!」  くちづけたまま獅堂が正面から挿入したものだから堪らない。日路は再び乱れ始める。  先ほどよりも獅堂の体温を直に感じながら──突き上げられながらも無心にキスを返す日路が健気だ。  獅堂は日路の両脇を掴み、親指の腹でクリクリと日路の乳首を捻り回す。  ビクンと身体が跳ね上がったので、獅堂は口元を近づけると、腰を揺すってずぷずぷとアナルを犯し、乳首を舐めてしゃぶりあげた。  べろっ……ちゅぴ……ちゅぴ……っ  シーツを掴んでいた日路の手が、獅堂の頭を抱え込む。 「ぁ……っ! ぁあっ……!」  獅堂はそれでも腰を振るのを止めない。  ぐぽ……っ……ぐっぷ……ぐぽ…っ  獅堂は怒張した陰茎で日路の身体を思うさま貪った。 「はッ…はぁッ」  短く息を吐いて、獅堂も上り詰める。  日路は、しがみついていた頭を掴んで、獅堂の顔を自分に向けさせた。  ふたりの視線が合う。  日路に微笑まれて。 「……礼一郎ッ!」  獅堂に名を呼ばれ日路は身体を痙攣させると、ぎゅうと凝縮し、快楽の頂点に達した。  獅堂もこらえ切れずに、びゅるびゅると白濁を注ぎ込む。  しばらく繋がったままふたりは抱き合い。  日路が意識を手放すのを見届けると、獅堂はようやく、彼の身体を放した。  陰茎を引き抜けば、開ききってしまったアナルから、こぷりと白い残滓が垂れ落ちてくる。  さらに犯したくなる衝動を堪えて。  獅堂は日路を後ろから横抱きにして、眠りに落ちた。  クリスマスの朝が、白々と明ける時間まで愛し合ったふたりは、昼すぎまで昏々と眠りについたのだった。       ◉  年末は結局、日路と過ごせたのはクリスマスだけだった。  年が明けて一月。  その日、獅堂は北海道への出張が入り、業務後、飛行機での移動のため羽田空港にいた。  年初の空港は、どこもかしこも和風の装飾や照明で飾り付けられ賑やかだ。  獅堂もそんな華やいだ雰囲気を気を楽しみつつビールを飲みながら出発の時間までを潰していた。  手元のスマートフォンでは日路と会話している。 【獅堂】それで? 北のみやげは何がいい? 【日路】そうだな、帆立の貝柱が好きだ。 【獅堂】あー! あれな、噛むほど味が出るやつ! 分かった、買ってくる。 【日路】ありがとう。 【獅堂】じゃあ、そろそろ出るわ。 【日路】気をつけて。  獅堂はスマートフォンを片手に立ち上がるとコートを小脇に抱え、搭乗口へ向かって歩き始める。  歩きスマホが良くないことは分かっていたのだが。  画面で、北海道の海産物を調べていると。    どん。  と、獅堂は、誰かと正面からぶつかった。  スマートフォンを上げると、長い髪の頭が見える。  小さな女性に全身で体当たりしてしまったらしい。 「すみま……」  腹部に激痛が走った。 「?!」  顔を上げた女は、醜悪な笑顔で言う。 「死ね変態野郎」  女が獅堂の脇腹に刺した柳包丁を引き抜こうとしたので、獅堂はスマートフォンを放り出すと、その手を押さえつけた。  力では獅堂が勝る。 「チクショウッ……!」  女は一声叫ぶと刃物をそのまま残し、人混みに紛れて逃走した。  獅堂のワイシャツには、見る間に血が滲んでいく。  気がついた人々から悲鳴が上がり。  獅堂は出血が増えないよう刺された刃物を押さえたまま、救助を待つ他はなかった。  ──さすがにこれは、言わないと怒るよなあ。  そんなことを考えながら。  獅堂は、瞳を閉じた。

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