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第10話『少しづつ』
10月の体育祭に向けて練習が始まった。
「体育祭休もうかな」
「また尚道はそんなこと言って」
「小2の時から毎年言ってるよな」
彩歌と亘流は呆れたような声でいうけれど
「だって保育園までは楽しいとかあったけど小学校からは皆勝ち負け意識し始めるしガチなんだもん運動会とか体育祭とか部活じゃあるまいし」
「お前の場合行事ごと全般苦手だろ」
「亘流が意地悪言ってくる」
「意地悪じゃなくて事実な」
どっちにしろ同じだろ
「井草くんは行事ごとが苦手なの?」
いかにも素朴な疑問みたいな、ぃゃ、本人からしたらマジでそうなんだろうけど横からとんできた三鷹くんの質問に思わず眉間にシワがよる
「ぁ、答えたくないとかなら」
「別にそんなんじゃないけど」
幼稚だと思われるだろうか
言っても引かないだろうか
「……嫌だから」
「嫌?」
「勝負事が嫌なんだよ、そりゃあ部活とかもっと言えばプロのスポーツ選手とかゲームプレイヤーとかそれを仕事にしてる人とか好きでやってる人なら何も思わないし凄いと思うよ」
「うん」
「でも学校行事は体育祭も文化祭も合唱祭も余程の理由がない限り絶対参加で逃げたら負けみたいに扱われて後ろ指さされて教師や生徒や親からも学生ってだけで強要されて拒否権ないじゃん」
「言われてみれば確かに」
「だろ?」
「それが学生の青春で正解みたいなね」
「マっっジでそれ!」
思わず力がはいる俺の言葉に三鷹くんはくすっと笑っていたけれどこっちはマジだ
「笑われた」
「ごめん余りに力がはいってたからw」
「だってどう考えても嫌なんだもん」
「強要されて拒否権ないのが?」
「それもあるけど勝負事だとどうしても勝ち負けが生まれるじゃん」
「?」
「それも大事な経験で学ぶべき事なんだろうけどせっかく皆で準備して練習してきたのにたった一日の勝敗だけで悔し涙で終わっちゃうのは悲しいてゆうか、もったいないじゃん」
どうせなら全員楽しいまま終わりたい
「そっか井草くんは優しいんだね」
驚いて振り向くと三鷹くんと目が合った
黒く澄んだ綺麗な瞳、あたたかい笑顔
「優しいってゆうか平和なのが好きなのかなぁて皆こんなに努力してるんだもんね」
その目が同級生達の方に向かう
「勝負形式も団結感あって楽しめるけど皆楽しいで終われたら俺もそれが一番うれしいなぁ」
三鷹くんらしい言葉だなぁて思った。
楽しいの捉え方は人それぞれだ
勝ちたいって競争心が楽しいやつ
皆と力を合わせる事が楽しいやつ
皆との行事ごと自体が楽しいやつ
勝ち負けより空気感が楽しいやつ
その全部を否定せずに俺の気持ちや考えにも嬉しいて共感で返してくれた。
「……」
お前の方がよっぽど優しいと思うけど。てか俺今楽しいまま終わりたいって声にだしたっけ?
「まぁいいか」
「なにが??」
「今年は少し頑張ってみようかと体育祭」
「そうなの!?」
「ぇ。うん?」
そんな驚く?
「俺ね俺ねっ井草くん達と初めての体育祭だから実はすごく楽しみなんだぁ〜」
ゎ、むっちゃ楽しそうな笑顔……//
「私も三鷹くんと一緒楽しみ!!」
いきなり横から聴こえた彩歌の声に少し驚いてしまったけれどそんなのお構い無しに三鷹くんとふたりで大盛り上がり。
「クラス対抗だから授業と違って男女混合で柄本さんとも一緒のチームだし」
「ね〜超お得だよねぇ〜w」
「お得〜w」
通販番組みたいな会話。
「亘流。お前の彼女は俺がいない時もあんな通販番組みたいなノリしてんの??」
「稀にある」
「あるんだ」
真顔で答えてる感じガチだな。
「絶対あれ半分おふざけだよね二人共」
「だろうねでもまぁ体育祭が楽しみなのは本当だろうし俺も楽しみだし尚道も同じだろ」
「はあ?」
予想外の言葉に亘流を見ると少しニヤッと笑いながら『楽しみって顔してるw』て言われた。
「否定しないけどやっぱ亘流意地悪だ」
「顔赤いですよ」
「うっせぇ日差しのせいだろ」
「はいはい日差しのせいだな」
くそっからかいやがって
「井草くん早川くん練習始まるって」
「おいでよ〜」
「はーい!尚道行こう」
「うん」
まぁ別にいいけどさ三鷹くんと付き合ってるわけでも無いしそんな気もないしただの友達だし
……
……
……、…………そう、ただの友達だ
『尚道?』
「え」
『どうしたの眠い?』
もう日課になってきた夜の通話で三鷹くんからそう聞かれてしまった
「別にまだ眠くないし大丈夫」
『ならいいんだけど』
「悠太はどうなのさ」
『俺もまだ眠くないよ』
もう0時過ぎてるのに
「じゃあもう少し話そうよ」
『うん』
ほぼ毎晩通話するくらい頻度が増えたからこそ思うけど本当に三鷹くんの家族は帰りが遅い父親も母親もお兄さんも日を跨ぐなんてザラだ
『そうい言えばついに明日だね』
「明日てか今日な」
『確かにw』
明日はいよいよ体育祭当日だ。
「さすがにクラスメイトがいる教室で弁当のおかず交換するのは難しいか」
『そうだね今日尚道のお弁当にはいってた肉巻き美味しかったから食べたかったんだけどなぁ』
「それはよかった」
『あれも尚道が作ったの?』
「まあねでも結構簡単だよ」
『俺自炊しないから尊敬だよ』
「悠太も、て、言おうかと思ったけど母親の作り置きあるんだよな」
『そう残せなくてw』
だったら
「体育祭終わったあとにさ家にある作り置き全部詰め込んで四人で紅葉みに行こうよ」
『え』
「お疲れ様って意味も込めて」
『出来るとは思うけどぃぃのかな』
そりゃ迷うよなあれだけの家庭環境のなかで家族関係なんだとしてもコイツがほしいのはそいつらから求められることだ。
「亘流や彩歌にも食べてみて欲しいし」
食べきれないものを友人に譲る後ろめたさがあるんだと思う多分それ以外の理由や不安もきっと沢山かかえてる
「難しかったら無理強いはしないから」
『うん、わかった一応きいてみる』
「ありがとう」
『じゃあもう遅いし今日は』
「悠太」
『?』
「もし四人で行けた時は俺がお前ぶんの弁当作ってもいい?」
『……』
黙っちゃった踏み込みすぎたかな//
『……ぃぃの?』
「いいから聞いてる」
通話越しに押し殺すような声が聞こえたけれど悠太の方から話しだせるまで待った
『尚道が作った卵焼きいれてほしぃ』
「いいよ」
『今日の肉巻きも』
「うん」
『……おれがんばる』
「じゃあ待ってる」
『うん今日も通話付き合ってくれてありがとうねまた明日学校で』
「ん。おやすみ」
『おやすみなさい』
通話を切ってから寝に入るけど責める言い方をしてしまっただろうか、今もずっと頑張っているあいつのプレッシャーになったかもしれない
「…………」
それでもあいつを雁字搦めにしているものを少しづつ少しづつ解けていけたらいつか息が軽くなれる時がきたらいいなと願ってしまう。
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