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第9話『眠い理由』

夏も終わり秋に入った二学期。 「おはよう」 「おはよう〜柄本さん早川くん」 朝。三鷹くんとハイタッチしながら挨拶して自分の席につくのが彩歌と亘流の日課になってんだけど何故この日課が出来上がったのか謎 「井草くんもおはよう」 「はよう」 俺は絶対しないけど。今みたいに普通に挨拶して自分の席につくだけ、ん? 「…………」 「ん。どうしたの?」 衣替えの秋とはいえまだまだ暑い9月 上着を脱いでいる生徒も少なくない だからか見えた、三鷹くんの腕の傷 「ぃゃ今日四時限目体育だからさ」 「ぁぁ、うん、なるほど確かにね」 「三鷹くん暑がり?」 「実はそうなんだよ〜長シャツに変わったから上まで着たら汗かいちゃうからさぁ」 「それは困るな」 「ほんとだよぉ」 主語は無いのに実際の会話とは別の会話が成り立つから空気ってホント恐ろしい。 「一応体育はジャージ羽織って参加する予定」 「サボらないあたり真面目かよ」 「サボってたらキリないよw」 あの日、四人で話し合ったけど俺の予想通り彩歌も亘流も快諾して三鷹くんも全部とまではいかなくても気持ちを吐き出す事が出来て前ほど酷い笑顔を作る事も減ったように思う。このくらいの取り繕いもまぁ普通だよな。 「……てゆうかマジ眠い寝る」 「えっもうすぐ朝のHR始まるよ」 「一時限目まで時間あるだろ」 「そうだけど」 「寝るから時間きたら起こして」 「そんなに眠いの?」 「ん、」 「わかったじゃあ先生来たら起こすね」 「ん……ありがと」 不思議だ最初あれだけ警戒してた相手なのにこの前はキスまでされたのに三鷹くんが近くに居ると心地よくて、安心して寝れる 「井草くん、井草くん」 「?」 「数学の先生きたよ」 「ぁぁ、ん、ありがとう」 そのまま何事もなく一時限目が始まり二時限三時限と終わって四時限目の体育の時間 「眠い」 「尚道の顔が険しい」 「眠いんだよ」 「見れば分かるけどHRの時寝てたじゃん三鷹くんに起こしてもらってさ」 「んー」 「ちょっと立ったまま寝るな授業始まる」 体育の時間は男女別プラスΩはβとペアを組まなければいけないのだけれど先生のはからいで毎回ペアの相手が亘流だから俺的には正直助かる 「いだいイダイ痛い!亘流っ痛い!」 「相変わらず体固たいな」 「もう少し柔く押してっ」 「いやこれ以上柔くしたら前屈が前屈にならないし今も少ししか押してない」 「くそ、次の番覚えてろよ」 とか言いながらも結果はわかってる わかってはいてもやっぱり腹は立つ 「なんで亘流そんな体柔らかいのさ」 「すまんな」 俺が全力で押しても全然痛がらない ぃゃ痛めつけたいわけでもないけど もう少しで地面に体がぺったんこしそうなくらい倒れてんだから『なんか若干いてぇわ』くらいの反応はほしいわけよ?わかる?? 「痛いふりしてよ」 「俺そんな趣味ない」 「自分が出来ないことを目の前でこれくらい余裕たっぷりにこなされたら腹立つ」 「理不尽」 「羨ましい」 「妬みかよ」 てゆうか普通に会話出来てるのも腹立つ 「そんな見たいなら三鷹くんみれば」 「なんで三鷹くん?」 「ほらあそこ」 亘流が指さす方を向くと斜め前で全く前屈出来ずに唸ってる三鷹くんがいた。 「毎回尚道と同じ時に前屈してたから見えてなかっただろうけど毎回あんなだよ」 前屈が前屈になってないw 「尚道よりはマシだけど固いよね」 「えっ俺あれより酷いの!?」 「角度だけでいったらたぶん尚道の倍くらいは前屈出来てると思う」 「嘘でしょ」 「マジ」 マジか傍から見たら俺あれより酷いのか 「…………俺もう少し頑張ろうかな」 「それはいいけど次の柔軟に移りたいから退けてほしい流石に体起こせない」 「ぁ。ごめん。」 てゆうか三鷹くん体固いの意外かも授業でスポーツする時は大活躍だし勝手に柔らかいイメージあったけど学校の授業でやるレベルって考えれば大体の競技は固くてもある程度できるのか 「いっっだい!亘流加減してっ」 「頑張るんでしょ」 「次からする!次っイタイイタイ痛ぃ」 「次からするはしない人の言葉だよ」 とかいつも通りの体育が終わって昼休憩 「身体中痛い絶対明日筋肉痛だるい痛い」 「わかるぅ、俺も全身痛い」 いつも通り4階の空き教室でいつも通りのメンツで昼食中に嘆く俺と三鷹くんの向い側で亘流と彩歌は涼しい顔してる 「柄本さんと早川くんはなんであんなに体が柔らかいの羨ましいよぉ」 「私は寝る前にストレッチしてる」 「俺は特にないから多分体質かな」 「そっかストレッチと体質かぁ」 流されてる流されてるストレッチはともかく体質であの柔らかさはもう少し驚くとかあるじゃん受け入れるの早いて。 「井草くんは?」 「ぇ」 「井草くんは体柔らかいの?」 「ぁぁ、、まぁ、ぼちぼち?」 「そっか」 なんか言いだしづらい 「体育の授業の時よく叫んでるからもしかしてとか思ってたけど俺が一番固いのかぁ」 「ぇと、、そう、みたいだネ」 ますます言い出しづらいわ 「くふ、、フフフ……w」 「ぼちぼち…………w」 「ちょっと二人とも笑わないでよ」 「だって尚道、ぃゃまぁぼちぼちだしw」 「そうだよな、ぼちぼちだもんなw」 くそっっ馬鹿にしやがって!! 俺の横でハテナ飛ばしてる三鷹くんがいたから怒んなかったけど絶対二人とも馬鹿にしてる! 「あ。井草くん」 「なんすか」 「今日のおかず何にする?」 「ぁぁ。えっとじゃあ唐揚げ」 「はーい」 「三鷹くんは?」 「俺は卵焼きたべたい」 「いいよ」 二人で弁当のおかずを交換。 これは俺と三鷹くんの日課。 「甘い卵焼きって最初食べた時びっくりしたけどおいしいよね〜」 「ならよかった」 三鷹くんの弁当も色んなおかず食べたけど全部美味しい、全部、母親が作ってんだよな 「いいなぁ尚道だけ」 「彩歌はいつもコンビニの菓子パンか惣菜パンだから交換のしようがないじゃん」 「まぁそうですけどぉ」 とか言いながら口尖らせてるし不満ありげ。 「いいもん亘流の唐揚げもらうから」 「ちょっとなんで俺!?」 「亘流お弁当だけど参加してないじゃん」 「してないからってあげる事にはなりません」 「一個だけ」 「だめ」 「じゃあひと口だけっ」 「食べかけ残されても困るっ」 毎度この攻防戦が始まるからみてて面白いんだよな彩歌も毎度貰えないのに粘るし、それに 「パンだけじゃ足りないのぉ」 「ドデカパン2個も食ってただろ」 「今日は体育のあとだから尚更足りないお腹空いた亘流お願ぃお目こぼしをー!」 そんなふたりのやりとりを楽しそうに見てる三鷹くんがいてそれで面白かったりしたりもする 「…………ん?」 ぁ∑ やべ目が合っちゃった……// 「どしたの?」 「何が」 「ぁぃゃ目が合ったような気がして」 「気のせいじゃないの。」 「かな?でもそうかもごめんね」 「いいよ」 また嘘ついてしまった、申し訳ねぇ 「なら家でおにぎり作るなりして来いよ」 「私下手だから見られるの恥ずかしい」 てかまだ攻防戦続いてるし。 「だったらコンビニで買えばいいだろ?」 「五百円じゃ買えないんだもん」 確かに五百円じゃドデカパン2個買ったらおにぎりは買えないだろうしおにぎり3つに変えても彩歌には足りないだろうな。痩せの大食いだし。 「柄本さんもし良かったら俺の分たべる?」 「えっいいの!?」 「うん俺もうお腹いっぱいだし一応残ってるのは箸もつけてないぶんだから」 「ありがとう〜」 そういいながら彩歌が三鷹くんの弁当を受け取って食べ始めた。 「んん〜〜っおいひぃ//」 「よかった」 ちらと亘流の方見てみると彩歌が弁当食べてるとこをジーとみてる 「…………彩歌」 「ん。なに亘流も食べる?」 「食べないけど少しは遠慮しろよ三鷹くんの弁当なのにせめて半分にするとかさ」 「三鷹くんいいよって言ってくれたもん」 「俺ならだいじょうぶだよ」 「…………まぁ、三鷹くんがいいなら」 素直じゃないやつ、まぁ最初に三鷹くんに聞かれて友達間の回し飲みとか食べ回しは有りって話しちゃった手前言うに言えないんだろうなぁ 「亘流」 「なんだよ」 「今度から素直に渡せば。おかず。」 体育の仕返し含めて二人には聞こえない声量でそう伝えると少し睨まれちゃった 「別にそんなんじゃないし」 よく言うよ嫉妬してるくせに 「まぁ亘流が気にしないならいいけど」 「…………彩歌……」 「ごめんて亘流ぅ次からは我慢するから今日だけ食べさせて」 「おにぎり幾つあれば足りる」 「え」 「え」 いきなりの亘流の質問に彩歌と三鷹くんからは当然ハテナが飛んだよね 「だから今日みたいな時とか、その、いつもだけどおにぎり幾つあれば足りる」 「え、と普通サイズが2つか3つくらい?」 「じゃあ俺が持参するから今度から足りない時はそれ食べればいいよ」 「えっ本当に!?いいのっ!?」 「また三鷹くんの弁当貰うわけにはいかないしどうせ弁当作るの俺だしついでだからいいよ」 「ありがとう〜っっ亘流のおにぎり楽しみ!!」 「うん……//」 そうきたかマジで素直じゃない。 「井草くん」 「?」 「俺もしかして余計な事しちゃったかな」 「ぁぁ…………んー」 流石の三鷹くんも察したのか小声でそう聞いてきたけど見る感じなんだかんだと亘流自身満更でも無さげだし彩歌はうきうきだし 「まぁ結果オーライじゃない?」 「ならいいんだけど」 てゆうか今更だけど亘流の中でちゃんと許せる許せない枠があるんだなぁとか思ったりした。 「早川くんのお弁当毎回美味しそうだぁて思ってたけど自分で作ってるの初めて知った」 「実際美味いよ。亘流の親二人とも働いてて昔から弟たちの面倒見てるんだけど最近は弁当も亘流が兄弟全員分作ってるらしいし」 「ゎぁ凄いね早川くん//」 自分の弁当は残り物詰めてるとも言ってたけど味は変わんないもんな。 「じゃあ弟くん達は早川くんのこと大好きだね」 「?」 「俺だったら自慢しちゃうと思うなぁ」 すごく優しい目……自慢ねぇ俺も兄ちゃんいるけど好きか嫌いかは別としてカッコイイと思う時はたまにあるし姉ちゃんとも仲悪く無いし …… …… でも今の発言とか夏休みの時とか家庭事情を見聞きした限り三鷹くんは違うんだろうな 「そうかもね」 「きっとそうだよ」 その日もそのままいつも通りな一日が過ぎた。 「はぁー…………今日も一日のりきった」 勉強も終わり夕飯お風呂歯磨きと諸々終わらせて自分のベットで横になった体から力が抜けるひと息つける、でもそう思うのはまだ早いよなぁとか考えていたら案の定スマホからの通知音 「ですよね」 開いた画面には三鷹の二文字 『今日たのしかった』 毎夜そんなメッセージが届く 『俺も楽しかった』 グループじゃなく俺と三鷹くんだけのやりとりが夏休みのあの一件以降続いてる、それと、 『明日のおかず楽しみ』 『とか言って毎回卵焼きじゃん』 『だって甘い卵焼き美味しいし特に今日の卵焼きは美味しかった気がする』 『今日のぶんは俺が作ってます』 『えっホント!?』 『マジ』 『すごいっ尚道の卵焼きおいしかった』 それともう一つが…………これ……/// 『悠太が食べたいなら明日も作れる』 『食べたい!』 『了解。でも毎日は無理だから。』 『うんっ』 約束したわけじゃないのにこのやり取りの時だけは俺を『尚道』て呼ぶし俺も『悠太』て呼ぶのが定着してる学校とかグループメッセージとか彩歌や亘流の前ではお互い苗字呼びに戻るのにこの時間だけ名前呼びなのが妙にくすぐったくて困る、今なら通話すれば名前で呼んでもらえるかなとか考えたりしちゃうから……// 『実は白だし入れてるよ』 『えっ白だし入れると甘くなるの?』 『多少はねあとは砂糖が少し入ってる』 『そうなんだぁ尚道も料理出来るの?』 『まぁそれなりには』 『いつか卵焼き以外も食べてみたいなぁ』 『気が向いたら作ってみるからリクエスト思いついたらよろです』 『わかった〜ありがとう』 『別についでだし悠太からの感想で味の改善も出来ると思うから』 『じゃあリクエスト沢山送る〜』 『沢山は勘弁。最初は2つまででw』 『言われてみたらそうだねw』 当日はそこまで気にならなかったのに 「 “ 俺も下の名前で呼んでぃぃ? ” 」 心からうれしそうな声や表情で呼んでくれたり 「 “ ふふ、尚道// ” 」 三鷹くんの口から何度もきこえた自分の名前を呼ぶ声も表情も、それに、キスも 「 “ 尚道、尚道尚道尚道、なおみち ” 」 時間が経てば経つほど徐々に実感みたいなものが湧いてきてあの時の感覚が消えなぃしどうしてもあのキスを思いだしてしまう……/// 『尚道がよかったら』 ん? 『今から少しだけ通話できる?』 っっ!!? あまりの展開に少し思考がフリーズ でも断る理由は無いし、ぃぃよね 『いいよ』 そう返信をすると少しして聞こえた着信音に応答すれば通話越しだけど聞き馴染みのある声 『寝る前なのにごめんねありがとう』 「ぃゃ別に気にしてないし」 三鷹くんの声だ……// 「今家の人は?」 『皆いないよ』 もうすぐ23時だけど 「いつも23時すぎる感じ?」 『兄ちゃんは0時過ぎくらいで父さんはよく知らない。生活リズムが全然違うから』 そういえば会わない事の方が多いんだっけか 『母さんはいつも19時から家にいるけど今日は自分の実家に寄ってから帰ってくるらしいし多分今日はみんな日またぐかな』 「因みにそれってよくある事?」 『週に三、四回くらい』 結構な頻度だな 『だから周りに人もいないしメッセージじゃなくて通話で『おやすみ』が言いたくて』 「…………へぇ//」 『おやすみ、尚道』 「おやすみ、、ゅ、悠太」 そのまま通話をきり画面をみれば通話時間は1分弱もう少し話してた気がするけど意外と経ってないもんなんだな ───『 “ おやすみ、尚道 ” 』 もう、顔あつぃ//// 動揺してたの伝わってないよね逆に無愛想だったかもでも仕方ないじゃん三鷹くんのこと名前で呼ぶとかあの日以来だしっ……不可抗力だよ///// 「…………」 「…………」 無意識に触った自分の唇が熱くて更に恥ずかしくなっちゃって今夜もなかなか寝つけそうになくて明日もまた三鷹くんのお世話になりそうだ//

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