8 / 10

第8話『三鷹家』

改めて俺の部屋で座りなおしたあと三鷹くんは自分の家族のこと親族間の事情を話してくれた。 「じゃあαなのは三鷹くんとお父さんと父方の家系の親族だけって事?」 「うん」 亘流の質問に三鷹くんが少し俯きながら頷いた 「父さんの家系は血族意識が強くてだからかαへのこだわりみたいなものも強くてΩである母さんやβの兄ちゃんは疎まれてる」 つまりα絶対主義者て事か 「お父さんは味方してくれたり」 「味方ってゆうか、、その、」 言葉に詰まる三鷹くんの視線が俺の方をむくから頷いた。なんとなく予想はついてる。 「……父さんは最初親戚から紹介されたαの女性とお付き合いしてたらしいんだけど当時父さんの勤め先で清掃の仕事をしてた母さんが、その、結構強めのヒートを起こしたらしくて」 ここまで話せば亘流や彩歌も流石に察したのだと思う。明らかに表情が影った。 「その時に出来た子供が兄ちゃん」 やっぱり、そう言うことか 「普通に犯罪だし母さんへの負い目から父さんは母さんを選んで母さんも番になった以上もう前みたいな暮らしはできないしお腹の子を自分達の都合で堕ろしたくないからって、そのまま責任を取るかたちになって」 「……」 「親戚や当時の交際相手やその両親からは略奪婚だ一族の恥だってかなり責め立てられたらしくてだから立場が弱くて逆らえない」 「そう、なんだ」 「うん」 ヒートは体調次第で早まることがある。 もちろんだからって父親のそれは許される事ではないけれど母親が重度のΩで父親が中度のαて話だし互いに抑制剤や常備薬を服用していたんだとしても逆らえずにラットを起こしても不思議はない 「三鷹くん」 「?」 俺が今聞こうとしている事は三鷹くんとお兄さんを傷つける言葉だってわかってる 「お兄さんはβなんだよね」 察したのか静かに頷いた三鷹くんに聞いた きっとそこを明確にしなければ彼が苦しみの渦から手を伸ばすことさえ出来なくなると思ったから 「親戚はαを産めって言ってきたんじゃない」 亘流と彩歌の表情が一瞬で凍りつく 動揺と恐怖心が入り交じった顔だ 「その結果産まれたのが三鷹くん」 言葉を失うふたりの横で顔を上げて俺を見る彼は笑顔を作っていた。とても痛々しい笑顔。 「井草くんの言う通りだよ」 「……」 「第二の性の仮診断が13で断定は15年目の誕生日。母さんの年齢的に最後のチャンスで出来たのが俺だったでも親戚からの重圧が母さんを狂わせて、ぃゃ、とっくの昔に限界だったんだと思う『もし産まれてくる子がαじゃなかったら』『もしあなたがαじゃなかったら』『あなたはαでいて』『お願いだからお兄ちゃんと私を助けて』てそれが俺を授かってから15をむかえる去年まで母さんが口癖みたいに言ってた言葉」 「うん」 「誕生日に母さんがさ診断書を抱きしめてわんわん泣いてて。何度も。何度も。俺の手を握りながらありがとうて言っててそれを見てた兄ちゃんの顔を俺が忘れる事は一生ないと思う」 無理もないよな、三鷹くんの存在も性も母親のありがとうと繰り返す言葉もお兄さんの存在を否定するものになってしまうから 「ご、ごめんね〜やっぱ重いよねw」 突然の明るい声に俯いていたふたりも三鷹くんをみた。それでも彼は明るく振る舞った。 「今は母さんの執着がすごくてさ〜ぁでもこの傷は虐待とかじゃなくてこう親戚と顔を合わせなきゃいけない時とか母さんも働いてるからふと不安になった時とか手つけらんなくて精神安定剤が俺みたいな感じで掴まれても母さんは女性なわけだし振り払って怪我させたくないし俺なんかより母さんや兄ちゃんの方がずっと」 「虐待だろ」 俺の言葉に彼の顔が初めて強ばった 「そう認めたら苦しい?自分の家族を悪く言われたくない?悪者にしたくない?」 かたまったまま動かない何も言わない 俺自身デリカシーの無い事を言ってる自覚はある踏みつけてナイフを振りかざしている自覚もある 「気づいてないならハッキリ言うけど三鷹くんずっと笑えてないよ俺言ったよね逃げなくていいて諦めなくていいて自分の傷をちゃんとみなよ」 「でも、打撲だし、数日で治」 「俺が言ってんのはここの傷!」 彼の前に立って胸に手をあてた 「母親とか兄貴とかお前の家族じゃなぃ俺はお前自身の心の傷の話しをしてんの!!」 眉間に寄った皺が固く噛み締められた唇が涙をいっぱい溜めて潤んだ瞳が助けてって言ってる 「どんな理由があってもどれだけお前が優しくても家族を好きなんだとしてもっお前が傷ついていい理由にはならない!見なくていい理由にだってならないっだからちゃんと逃げずに諦めずに全部吐き出せッもっと自己中になれッお前の人生はお前だけのもんだろッ!!」 一気に話して息が切れてしまう静かな部屋に自分の乱れた息遣いだけが聴こえてて必死に息を整えて必死に心を落ち着かせて伝えた 「今ここにいるのは三鷹悠太としてのお前もαとしてのお前も臆病で寂しがりでそれでも相手を優先できるお前も全部含めて大切にしたい人達だけだから、それを、伝えたくて、、」 言いすぎたかもしれなぃ だってこれは俺のエゴでしかないし 三鷹くんの気持ちを無視した言葉で でも、このさい俺は嫌われたってぃぃ もう彼の隣にいられなくなるとしても もう、笑ったり話せないんだとしても 少しでも彼の傷が増えないように …… …… もう、俺は三鷹くんのそばに、いられない? ───いやだ でも、言ったことも気持ちも本当で ───いやだ でも、三鷹くんには亘流も彩歌もいて ───いやだ、いやだ嫌だっ でも、だって、嫌だ、でも そんな言葉達が頭をかき乱して彼の胸にあてたままの手が震える何を言えばいいかわからない 「井草くん」 「?」 「井草く、、井草くん」 震えた声が何度も俺を呼んだ 俺に手を伸ばしては引っ込めて 涙で溢れた目が俺を見あげてる 「…………亘流、彩歌」 「尚道?」 「すこしだけ席外せる」 「でもそれは」 「ちゃんと分かってるから」 「でも」 「彩歌。出よう」 「亘流っ」 「尚道が決めた事だから出よう」 「っ………………わかった」 ふたりが退室してから三鷹くんの頬に手を添えて涙を拭ってただ一言『おいで』そう伝えると倒れる程の勢いで抱きつかれた若干頭を打って痛い。 「ごめんなさぃ」 「だいじょうぶ」 彼の背に手を回して軽くとんとん。 三鷹くんにとって亘流と彩歌は友人であるのと同時に理性のリミッターだ俺と万が一が無いために自分の理性とふたりの目で二重に自分を抑え込んでる。今日俺の部屋に来れたのだってラット薬を飲んだから以上に二人がいる後ろ盾があったからだろうけどその強い自制は同時に彼の本音も抑え込んでしまう。 「だいじょうぶだから言ってみな」 「でも……でもぉれ」 ふたりが退室した今それはもう俺の身は危機的状況なわけでチョーカーもつけてないし押し倒されてるしあとは三鷹くんの理性を信じるしかないのだけれど不思議と怖くない俺がいる 「だいじょうぶ」 「ぅ、ぅう……ヒグっ」 「俺はだいじょうぶだよ」 「ヒグ、ぅ、ツラい」 「うん」 「ツラぃ苦しぃ、ッッ俺だってすきでαに生まれたわけじゃない!痛いのやだぁもう嫌だっ母さんがツライのわかるけどっ兄ちゃんが本当は俺のこと嫌いなのもわかるけどっっ、ぉれだって我慢してるのに!頑張ってるのに!!」 「うん」 「帰りたくないっホントは帰りたくなぃ、けホッケホッ……ぅ、かほッ、もぅもうヤダァ゛皆俺のことなんて見てないくせにαが欲しいだけのくせに母さんの愛情が欲しいだけのくせに!」 背中をさする、とんとんと叩く そのまま全部、全部吐き出せ 「兄ちゃんの方が愛されてるもんッ母さんが本当に愛してるのはずっと兄ちゃんだけだもん!わかってるよ゛ずっとみてきたから嫌でもわかるよ!母さんも父さんも親戚も、見てるのは俺じゃなくてαでっ、、α、だからで、ぉれはっ俺は」 「……」 「ヒグ……ヒク………………俺はαだから、ただそれだけ、それ以上でも以下でもなぃ」 「……」 「ちゃんとαでいないと、あの場所(家)に俺の価値はなぃ、ぜんぶ分かってるのに嫌いになれなぃ」 「……」 「俺も家族になりたぃ、あの人たちの家族になりたい、ただそれだけなのに……ぉれの、わがままなのかな、贅沢なのかな」 「……」 「……」 「……」 「…………さびしい……」 ただただ静かに『さびしい』そう発した声はとても弱々しくてその言葉を最後にあとはしくしくと抱きついたまま泣くだけ 「……」 今のこいつに俺が同調するのは簡単だ 『そうだよな』『わかるよ』 『さびしいよな』『わがままじゃない』 『贅沢じゃない』『当たり前だよ』 て当たり障りのない言葉は言えるけど こいつの孤独はこいつにしか分からない だったら俺が今こいつに出来ることは、 「三鷹くん」 「ヒグ………………井草く」 「家族とは違うけど俺たちじゃダメかな」 「……ぇ………………?」 「俺と彩歌と亘流と三鷹く……ぃゃ悠太と四人」 「!?」 「これから沢山話して沢山遊んで沢山思い出作ってさ俺達の隣を悠太の居場所にしたい」 「……」 「帰る場所は家でも自分に帰れる場所は俺達の隣だって思ってもらえたらなぁて。自分で言うのもおかしいけど俺達四人ならさびしいとか考える時間もなくなるくらい楽しいと思うんだよね」 「……」 「……」 俺の提案にぽかんとしたまま返事がない いきなりの名前呼びはまずかったかな でももう呼んじゃったし 「井草くんの」 「ん?」 「井草くんのさっきみたいな笑顔初めて見た」 「そうだっけ」 「うんすげぇあたたかくて俺すきだ」 「っ!!?///」 ぃゃ、いやいやいや!! これは違うから好きとかじゃないから今のはいつものぐいぐいじゃない言い方だったからでふわって溢れたみたいな言い方するから驚いただけ/// 「ま、まぁそれは今置いとくとして強制はしないし三鷹くんがいいならだけど、どうすか」 「ぇ……名前呼び、じゃないの」 それくらいでしゅんとすんなよっ いちいち恥ずかしいなぁコイツっ 「その、悠太はどうですか」 「俺が選んでいいの」 「もちろん」 「えっと柄本さんと早川くんの意向をきいたうえでふたりが大丈夫そうなら俺もそうしたぃ」 多分大丈夫だとは思うけど 「そうだね四人でちゃんと話し合って決めよう」 「うんっ//」 嬉しそうだな 「じゃあふたりを呼び戻してく、る」 おっと…………?? 「あの離していただけます??」 「うん」 うんとは返ってくるけど明らか離す気配ないし退けてくれないと体起こせないよ 「三鷹く」 「悠太」 「ゅ、悠太どけて」 「もう少しだけ」 これやばいかもしれない 「俺も下の名前で呼んでぃぃ?」 「えっなんで」 「呼びたい」 むっちゃ凝視するじゃん、ぇ、これ許可しないといけない感じか?まぁ俺だけ名前呼びとかフェアじゃない気もするし、ぃゃ、でも、、ぇぇ 「まぁいいよ」 「尚道くん」 「っ」 「ぁ、尚道?んー、尚道くん?」 「……っ…………」 「尚道くん、尚道、尚道?尚道くん??」 「もう呼び捨てでいいから!!」 呼び方で迷ってるのだと分かってはいてもこう何度も声にだされるとこっちが恥ずかしぃ! 「ふふ、尚道//」 「!?」 「名前呼びうれしぃ」 …… …… …… 「尚道ずっと甘い匂いする//」 「うるさぃお前もしてるっ」 「匂い強くなった」 「いちいち言わなくてぃぃ」 これ、まじでやばい/// 「尚道」 「ゃ、め……撫でんな、て」 「尚道も俺の頬さっき撫でた」 指あつぃ、こいつ、目が// 「尚道、なおみち」 これ絶対ラット起こしかけてるっっ 「まじで、待っ、ぉねが」 「尚道」 「ひっ」 はっ、なっ、、俺の顔、舐めて!? 「ゃめ、やめろって、三鷹く」 「悠太」 「三鷹くんっ」 「悠太って呼んで」 「ゅ、ゅぅた、悠太っ」 「うん」 「呼んだっ……から、よんだのに」 舐められたとこ、あつぃ さっきより匂い、つよぃ いつもより近いせいか脳がピリピリして からだ、ぅまく力……はいらな 「ぉねが……ゅぅぁ//」 「かわいい」 呂律まわんない おれ、まさか、このまま やだ、ぃやだ、彩歌亘流 「尚道」 「!んッ…………んんっ、ん」 うそ、俺キスされて 「ん、ん、んっ……んぁ、///」 「尚道、尚道尚道尚道、なおみち」 イヤ、なのに、なんでっ、こんな 頭ふわふわする抗えなぃ やだ 心地いい やだ きもちい やだ、ゃだイヤだ嫌だッ!! 「ぉ、ねが」 「?」 「おねが、ゃら、ぃゃら……ぉねが、三鷹く」 「!?」 いきなり体が軽くなった後ずさるような音が聴こえたドタって棚にぶつかるみたいな重い音がしたダメだ意識飛びそう、のぼせたみたいにだるい、上手く動かない、息がくるしぃ 「ごめ、ごめ、なさ」 「??、はぁ、ぅ、ぁ………………?」 「ごめんなさ、ごめんなさぃごめんなさい」 三鷹くん、怯えてる あんな端にいって縮こまって ……ぁぁ、そうか、三鷹くんの両親もこんなだったんだΩとαでお互い抗えなくて本能のままになってでも三鷹くんは悠太は踏みとどまってくれた俺が自分から彼のリミッターを外してしまったのに 「三鷹く」 俺の声にびくつく様な声になってない声がきこえた気がしてちゃんと伝えなきゃと思った 「俺、だいじょうぶ、だから、、」 「……」 「すこし、やすめば、、なぉる、」 「……」 「三鷹く、ありがと」 「……ぇ………」 「あれ、で、踏みとどまれるのやっぱ、ぉ前、すごぃゎ、はは」 「……井草く…………?」 このまま会話しよう意識保つ為にも三鷹くんを落ち着かせる為にも多分それが一番手っ取り早ぃ 「おれの、こと、こわぃ?」 「こ、こわぃ……とゆうか俺いま父さんと同じこと井草くんにしようと」 「ぁぁ、まぁ、、ん」 「ご、ごめんなさ」 「ぃぃょ」 「?」 「結果的に、だけど、、踏みとどまって、くれたしぃゃだったけど、こわくは、なかったから」 「!」 「てか、そっちのほうが、顔色わるぃ、w」 「だって大事にしたぃから傷つけたくない」 やっぱそこなのね 三鷹くんらしい考えだなぁ 「とりあえず、今回のことは、彩歌と、亘流には秘密って、ことで」 「え」 「秘密の、一個や二個、あってもぃぃじゃん?おれたちだけの、秘密」 正直冷静になってくるとこの状態を見られるのが恥ずかしいってのもある 「三鷹くんは、それでぃ?」 「ゎ、わかった井草くんが望むなら」 「はは、あんがと」 ──それから約10分くらいでお互いある程度は落ち着いたのでリビングで待ってくれていたふたりを呼びに行った。三鷹くんがラットを起こしかけた事とかキスの事とか思ったより俺は気にならなくて三鷹くんも会話の効果か気にはしてたけどトラウマとまではいってない様子でよかった。

ともだちにシェアしよう!